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さて、システム管理者が頭を悩ます、もう一つの大きな問題が、迷惑メールだ。別名スパムメールとも呼ばれている。スパムは本来はご飯と一緒におにぎりにしたりする、あのしょっぱい肉の缶詰のことだ。何でこれが迷惑メールの意味になったか、という理由には幾つか説があるが、かつて「スパム、スパム、スパム……」と連呼するスパムのCMがあって、毎日延々届く迷惑メールがそれを連想させた、という説が有力だ。
しかし、今やスパムが全世界のインターネットのメール
だけど俺は管理者だから、スパムとしてより分けられたメールにも一通り目を通している。ごく稀だが「ハム」と呼ばれる、スパムじゃないのにスパムと誤認識されるメールがあるのだ。
それに。
実は俺は、全くの趣味で「スパムフィードバック」というシステムを開発している。これはスパムを送ってきた相手をなんとか特定してそれを送り返してやる、というものだ。もちろん大抵スパムの送り主メールアドレスは架空の物であることが多い。だからそのままそのメールアドレスに送り返しても、メーラーデーモンからあて先不明として返ってくるだけだ。
だけど、送り主のIPアドレスはメールのヘッダを見れば分かる。そこで、俺はIPアドレスから送り主が使っているプロバイダを特定し、そこの管理者を調べて自動的に苦情を送るようにしたのだ。
今では似たようなシステムもそこそこ存在するが、「スパムフィードバック」はもう10年も前に、あまりにも多くのスパムが届くことに業を煮やした学生時代の俺が作ったものだ。歴史も長く、しかもソースを無料で公開しているオープンソースソフトウェアなので、今でも利用者はかなり多い。開発に携わる人間も増えたが、未だに
だから、スパムというのは俺にとっては宿命のライバルみたいなものなのだ。というわけで、その研究のために俺はいつもスパムをちらちら見ていたりする。
最近は迷惑メールフィルターを通過するためにいろいろ工夫したスパムも増えている。だけど、工夫しすぎてもはやスパムの意味がなくなってしまっているようなメールもあったりする。題名や本文に意味不明な文字列が並んでいるようなヤツだ。
スパムは大抵は広告なのだが、こうなるともう何の広告なんだかワケが分からない。商品購入サイトへのリンクがあるとフィルターに引っかかるので、リンクすら張られていないスパムもある。おそらくどこかに何かシステムのようなものがあって、自動的にそのようなメールを作って送っているのだろうが……本来の目的を見失ってしまっているんじゃないだろうか。
だが。
ある日俺は、そういったランダムな文字列が並ぶスパムメールの題名を見ていてふと気づき、鳥肌が立つのを覚えた。
最新の14通のスパムの題名の、最初の1文字を取り出して時系列に並べると、以下のようになったのだ。
"OUR FATHER IN WEB" (ウェブにまします、我らの父よ)
明らかにこれはキリスト教の「主の祈り」の冒頭の一文、Our Father in Heaven(天にまします、我らの父よ)をもじった物だ。ここで言う「父」は、もちろん「神」を意味する。神に祈りを捧げる言葉として、キリスト教ならほぼ全ての宗派で使われている。
……。
これは偶然だろうか?
この14通のスパムを送ってきたサーバは、全て異なるIPアドレスだった。同じサーバからならまだしも、国籍もプロバイダもバラバラな14のサーバを使って、正確にこの順番にスパムを送るのは……かなり困難だ。たとえボットネットを使ったとしても。
しかも、念のため調べてみたが、こんな並びでスパムが届いているのは俺だけなのだ。少なくとも我が社の中では。
いったい、何が起きているんだ……?
ふと、俺の脳裏に一つの仮説が閃く。
「スパムフィードバック」を利用して、俺はスパムを送り返した。ただし少しだけカスタマイズを施して。即ち、10通のメールの題名の頭に以下の文字列を一文字ずつ追加して、順番に送り返したのだ。
WHO ARE YOU?(お前は何者だ?)
その質問に対する答えは、すぐに4通のスパムの形で帰ってきた。その最初の一文字を並べると……
"ADAM"
となった。
アダム……神に作られた、最初の人間……
まさか……いや、でも……本当に、そうなのか……?
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