8話 テスト結果とご褒美と
月日は流れた。
今日は中間テストが返却される日だ。
入学してすぐに学力調査テストがあったので、高校に入ってから二度目のテストとなる。
前回のテストと違い、今回は実力テストではないので、勉強さえすれば点数が取れるテストだ。
だから、今回は順位変動がかなりあってもおかしくない。
「さてさて、俺は何位かな……」
「千尋って、別にそんなに賢くなかったわよね」
「そ、そうだけど…夢に言われると何だか嫌味に聞こえるな」
俺はそう言いながら、順位表のトップを指さした。
そう言えば、俺と夢は、あの日以外の全ての日の登下校を一緒にしていた。
だから、今も朝登校してそのまま順位表を確認しに行っていたのだ。
少し話を戻して、俺が指さしたその先には…
1位 椎名心 901点
2位 石永夢 851点
3位 忠元夏也 828点
:
「総合2位の夢に言われたらな」
「別にそう言う意味じゃなかったんだけど」
「分かってるって」
少し申し訳なさそうに夢がそう言ったので、俺は冗談だよと言った。
それにしても、そんな風に申し訳なさそうにしている夢は、あまり見ないので新鮮だった。
「って、俺128位じゃん…」
「微妙ね」
「ほんとにそれだよ」
俺がそんな風に落ち込んでいると、遠くで騒ぎ声がした。
「すごいですね!椎名さん」
「心ちゃんすごいね!また一位じゃん!」
「椎名さんマジで凄いっすね!」
そんな感じで一人、すごくもてはやされている人物がいた。
「ありがとうございます、皆さん。今回の点数は偶然勉強したところとテストに出題されたところが同じだっただけです」
そんな風に、礼儀正しく丁寧な口調で話している綺麗な金髪が揺れる美少女は、校内で随一の優等生。
美少女四天王の一角、
そして何より、品のある言動と、圧倒的なまでの学力が、余計にお嬢様であることを印象付けている…らしい。
「あ、心ちゃん。また一位とられちゃったよ」
「石永さん!……と、鈴橋君ですね」
「あ、あぁ…どうも」
夢は椎名を見つけると、すぐさま挨拶をしに行った。
そして、俺はと言うと、苦笑いが絶えなかった。
なんせ、こいつの正体は……
その様子を見て、周りの連中が騒ぎ出す。
「おー。スゲーぞ」
「学年首席と次席がそろってるぞ」
「お二人ともお美しい…」
「やっぱり俺は石永さん派だな」
「俺は絶対椎名さんだ」
何やらテスト結果に関係ないことを話している奴らもいるが、それは置いておこう。
にしても、よく考えればどちらも美少女四天王と呼ばれているだけの美人だ。
そんな奴らと一緒に居るとなると、さすがに俺への視線も鋭いものとなる。
だから、俺はそっとこの場を離れようとして、そして捕まった。
「あ!鈴橋くんここに居たんだ!」
「に、西宮!?」
何と、ただでさえカオスになりかけているこの場に、さらに一人加わって言しまった。
「どうしたんだ?西宮」
「えっとね、お礼がしたくて」
「お礼?」
「うん。この前鈴橋くんが教えてくれたおかげで、無事に国語の順位が上がったんだ!」
そう言って、西宮が国語の上位十名が載っているランキングを指さした。
「4位か」
「うん。さすがに鈴橋くんには勝てなかったけどね」
「俺はその他ぼろ負けだからな」
そう言って、俺はもう一度国語のランキングを見た。
1位 鈴橋千尋 100点
うん。今回も相変わらず国語だけ良かった。
「まぁ、俺の教えも少しは役だったかもだけど、結局それをものにできた西宮がすごいんだよ」
「ありがとう、鈴橋くん」
そう言って、彼女が素直な笑顔を見せた。
関わりなんて、この前の勉強会ぐらいだった奴に向かって、そんな笑顔を振りまいちゃダメだろ。
分かっていても、さすがに勘違いしてしまう。
しかし、勘違いをするのは、俺だけではなかった。
「は、何だよアイツ。何であんなに西宮さんと仲良さげなんだよ」
「てか誰だよアイツ」
「あれだよ、例の石永さんと付き合ってる謎の男だよ」
「な!俺たちの石永さんを奪っておきながら、他の美少女四天王にも手を出してるのか!」
「クソッ!羨ましい!」
「落ち着けお前。願望が出てるぞ」
はぁ。ほんと、夢とは偽の恋人だと明言したいところだ。
が、おかげで分かった。
俺と夢が交際関係にあると言うことは、かなり校内でも広まっていると言うことだ。
そんな風に、痛い視線から逃れるように思考にふけっていると、また新しい声が聞こえてくる。
「アレ、千尋?どうしたの、こんな噂の渦中にいるなんて珍しいね」
「おい、そう思うならこれ以上厄介ごとを増やさないでくれよ、結衣」
「厄介ごととは何よ!私は普通に来ただけじゃない」
そう言って、結衣がほっぺを膨らませる。
言わずもがなだが、周りがさらにうるさくなった。
もう嫌だ…美少女四天王がついにそろってしまった……。
そして、俺は今度こそ逃げ出したのだった。
「あ、千尋!」
「許してくれ、夢」
「……まぁいいわ」
俺が逃げ出したことにいち早く気が付いた夢が、俺を呼び止めたのだが、この状況を理解してくれたのだろう。さすがにこれ以上はかわいそうだと言うことで、俺を開放してくれた。
こうして、俺は何とか逃げ出すことができた。
学校が終わり、無事家に帰って来た俺は、ベッドに寝転がって休んでいた。
すると、携帯が鳴り、一通のメールが届いた。
「誰からだ?」
俺はそう呟きながら携帯を開き、そして閉じた。
「そう言えば、もうそんな季節だったな……」
俺はそう言いながら、カレンダーを見た。
5月ももう終わろうかという時期だ。
「約束してたもんな……」
俺はそう呟いて、そのメールに返信をした。
ちなみに相手は、みんなの憧れ、椎名心だ。
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