6話 一目ぼれした女子と勉強会

 日曜日になった。

 西宮と勉強会をする約束をしている日だ。


 俺は西宮に言われた最寄りの駅まで来ていた。

 ここで待ち合わせて、それから家まで案内してもらう予定だ。


 そして、俺は少し早めの時間に来てしまったので、さすがに西宮の姿はなかった。


 その間に、俺はふと約束をした日の放課後のことを思い出した。



 放課後、俺と夢は先日同様一緒に下校していた。


「今日は昨日より視線の数が減ったな」

「そうね。まぁ、昨日は初めての日だったからね」

「それもそうだな」


 俺たちはたいした話のネタを持っていないので、こんな感じで適当な話をしながら業務をこなしていた。


 そして、俺はその流れで今日気になったことを口にした。


「そう言えばさ、どうして西宮との勉強会後押ししたんだ?」

「え?」


 俺がそう聞くと、夢はこちらに首を向けて軽くそう言った。


 これを夢が承諾すると言うのは、「本当は付き合ってないんじゃね?」的な誤解を生むことになるのだ。

 そんなリスクを背負ってまでする理由を、俺は知りたかった。


「まぁ、簡単に言ったら罪滅ぼしみたいなものよ」

「罪滅ぼし?」


 意外な回答に、俺はオウム返しをしてしまった。


「花ちゃんに対しての、最後のチャンスよ」


 俺の言葉に、夢は真剣な顔で小さな声で呟いた。


「は?え?なんて?」


 俺は残念ながらなんと言ったのかさっぱり分からず、聞き返すことしかできなかった。


 そんな俺を見て、夢はため息をつき、呆れた口調で話し始めた。


「別になんでもないわよ」

「そうなのか?」

「そうよ。私たちの関係はあくまでも私の男除けだから、千尋は今まで通りでいいのいよ」


 そう言って、夢がさっと俺から離れていく。


 見ると、すでにそこは別れる場所だった。


「だから、気にしなくていいわよ」

「お、おう」

「それじゃ」

「またな」


 こうして、その日は別れた。



 と、ここまで思い出したところで、タイミングを図ったように声がかけられた。


「待たせちゃってごめんね、鈴橋くん」


 声をかけてきた相手は、勿論西宮だった。


「全然。ちょうど今来たところだから」

「そっか。良かった」


 そう言って、本当に安心する西宮。


 俺はそんな彼女を見て、本当に良い子なんだなと思った。


「それじゃぁ、そろそろ行こっか」

「おう」


 そうして、俺たちは西宮の家へと向かった。



「お邪魔します」

「どうぞどうぞ」


 西宮の家に着くと、俺はそう言って中に入った。


 道中での話によると、親は午前中仕事に出かけているそうだ。

 まぁ、後に時間もすれば帰ってくるらしく、許可もとっているらしい。


「あんまり綺麗じゃないけど、どうぞ」


 西宮はそう言って、彼女の部屋の扉を開けた。


「失礼します」


 俺はそう言って、恐る恐る中に入った。


 そこに広がっていたのは、白を基調としたピンクで飾られたまさに女子と言った部屋だった。

 何と言うか、ある意味予想を裏切らない部屋だなと思った。

 白を基調としているあたりから、西宮の優しい性格があらわされている。


「綺麗な部屋だな」

「そ、そうかな?ありがとう」


 西宮は少し緊張しているのか、つまり気味にそう返した。


 俺はそんな西宮を見て余計に緊張してきて、体がガチガチに固まってきた。


「……」

「……」


 静寂が一瞬の時を包んだ。


 そして、そんな沈黙を破るように、西野が慌てながら話し始めた。


「お、お茶入れてくるね」

「う、うん。ありがとう」


 俺も少し気持ち悪いぐらいの慌てようで返した。


 西宮が出て行ってから、俺は部屋に真ん中に置かれていた机の前に腰を下ろした。


 そして、改めて思った。


「西宮、可愛い…」


 そう率直に思った。


 だってそうだ。

 彼女は俺が一目ぼれした相手なのだ。

 何もなければ、俺は彼女に純粋に恋をして、恐らくあっけなく散っていたのだろう。


 でも、夢との出来事があって、俺は一度諦めようと思った。


 しかしあの日、夢に「今まで通りでいいのよ」と言われてから色々と考えた。

 そして思ったのだ。


「好きでい続けるのは問題ないのでは」と。


 確かに、付き合いたいだとかそういった願望はないと言えば嘘になる。

 でも、付き合わなくても、別にわざわざ好きではなくなる必要はないのだ。


 俺には俺の恋がある。

 高校の間の男除けになれと言われているだけ。


 それに、もし付き合えるのなら、高校を卒業してから出だって遅くはない。


 そう思った瞬間から、俺はさらに西宮への好きという感情が大きくなった。


「お待たせ」


 と、そうこうしているうちにお茶を入れてきてくれた西宮が返ってきた。


「ありがとう。西宮」

「いえいえ」


 そう言いながら、彼女はコップを机の上に並べてくれた。


「それじゃ、そろそろ始めるか」

「はい。よろしくお願いします」


 そう言って、俺と西宮は机の上に参考書や教科書を広げた。


 こうして、俺と西宮の勉強会が幕を開けた。

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