4話 幼馴染みと彼女
長い長い授業が終わり、放課後になった。
俺と夢は一緒に帰る約束をしているので、ちゃっちゃと帰る準備をして彼女を待った。
「またね、夢ちゃん」
「うん、またね」
そう言って、彼女は何人かの友達に見送られて教室の外で待っていた俺の所に来た。
「お待たせ」
「おう」
そう言って、俺は教室のドアから背中を離して夢の隣を歩いて校門を目指した。
「あの二人、やっぱり本当に付き合ってるんだ…」
「まさか、あの石永があんな平凡な奴を選ぶなんてな」
「俺、あいつより何が劣ってたんだ…」
俺たちが一緒に帰っていると、相変わらず嫉妬やら絶望やらの噂の声が多数耳に入った。
ほんとに、もしアレさえなければ今ここで俺たちは偽の恋人だって大きな声で叫ぶのに。そしたらこんな痛い視線も受けられなくて済むのに…。
中学生の俺、恨むぜ。
なんてことを心の中で呟いていると、夢が話しかけてきた。
「やっぱり、一緒に登下校するのはかなり効果的だったみたいね」
「まぁな。おかげで休み時間は散々だったけどな」
俺はそう言って今日の昼休みのことを思い出す。
昼休み、いつものように弁当を広げようとしていた時、ドワッと俺の周りに女子が集まって来た。
「ねぇねぇ。鈴橋くんと石永さんって付き合ってるの?」
「え、あ、うん。そうだけど」
突然一人の女子がそう言ってきて、俺は少し驚きながらも肯定した。
すると、それに続くように他の女子も自分の聞きたかったことを聞いてくる。
「いつから付き合ってるの?」
「えっと、昨日から…」
「どっちから告白したの?」
「一応夢の方から…」
俺がそう何気なく答えると、女子がキャーと叫んだ。
悲鳴ではなく、女子特有の盛り上がり?みたいなやつだ。
やっぱり、嘘でも俺から告白したと言うべきだったか?なんて考えていると、全員が声を合わせてこう言ってきた。
「名前で呼んでるの!?」
「そっちかーい!」
驚いていたところがそこだったことに思わず突っ込んでしまった。
そんな感じで15分ほど質問攻めにあった俺は、ヘトヘトになって、その後裕翔に話しかけられたのだ。
という感じで俺が今日の出来事を思い出していると、同じく今日のことを思い出していたのであろう夢が、ヤレヤレと言ったしぐさで話してきた。
「それは私もだけどね」
「夢は自業自得だろ」
「あら、私にそんな口利いていいの~?」
俺がそう突っ込むと、夢はそっとノートを取り出してニヤニヤしながらちらつかせてくる。
「卑怯だ!」
「何のことやら」
俺は「ぐぬぬぬ」と唸りながらなんとか耐えた。
そんな風に、傍から見たら仲良さげに二人で帰っていると、後ろから猛スピードで迫ってくるやつがいた。
「千尋――――――――――――!!!!!」
「ゆ、結衣?」
その相手は、なんと美少女四天王の一角、幼馴染みの沢野結衣だった。
「あら、結衣ちゃん」
「な、夢ちゃん!?」
夢と結衣は、お互いに驚いた表情をしていた。
二人の感じを見ていると、どうやら普通に仲が良いと言った感じだ。
学校ではあまり結衣とは関わっていないので、交友関係は知らなかった。
「なんだ、二人とも仲良かったんだ…」
俺がそう割って入ろうとしたとき、二人がボソッと呟いた。
「千尋と付き合ってるって噂されてた相手が夢ちゃんだったなんて…」
「夢ちゃんと千尋に関わりがあったなんて…」
「え、何、どうしたの?」
俺は訳が分からずとり合えず聞くことしかできなかった。
「い、いや、何でもないわよ」
「う、うん。何でもないよ」
「それならいいけど…」
明らかに動揺している二人を見て、少しびっくりした。
普段はどちらも落ち着いている方なので、こんな姿は見たことが無かったからだ。
「それよりどうしたんだよ。俺の名前なんか叫びながら追いかけてきて」
「え、え?」
俺はそもそも何か用事があったであろう結衣に、それを聞いた。
すると、結衣は最初こそ少し動揺していたが、一度深呼吸してから答えてくれた。
「いや、千尋の姿が見えたから追いかけてきただけ」
「え、あぁ、そうなのか」
「それじゃぁ邪魔してごめんね。また明日」
「あ、うん。また明日」
結衣は、そう言って、急いだ様子で帰っていった。
本当に、あんな結衣なんて今まで見たことが無かった。
しかし、俺も帰らないといけないので、夢にそう促そうとした。
「夢、俺たちも帰ろうぜ」
「え、うん。そうね。帰ろっか」
俺が声をかけると、何か考え事をしていたのか、少し驚きながらそうこたえてきた。
本当に、今日は結衣も夢も何だか変だな。
俺はそんなことを思いながら夢と共に帰路に就いた。
心なしか先ほどまでよりも距離を取られていることになんて気が付かずに…。
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