3話 初登校は大騒ぎ
『これをばらされたくなかった、私と付き合って』
今日の学校終わり、屋上で夢にそう言われた。
学年一と名高い美少女に、いきなり脅されたかと思うと、その内容が男除けのために偽の恋人になれって言われいたのだ。
本当に、劇的過ぎて思考が追いつかなかった。
「しかしまぁ、明日は一緒に登校だもんな……」
つまり、学校中に広める日。
俺の平穏な学園生活はとりあえず崩れるだろう。
というか、何でそうなったかと言うと、時間は放課後まで遡る。
あの後、今日はどうしても外せない用事があるって言って先に帰った。
こんな言葉を残して。
『今日はどうしても急いで帰らないといけないから無理だけど、明日からは基本的に毎日登下校だけは一緒にするわよ』
俺は「え?」という反応をしたのだが、ノートを理由に拒否権はないと言われた。
ほんと、どうしてあのノートがよりにもよって悪用するような人の手へと渡ってしまったのだろうか。
というか、そもそもそう言った面倒な恋人的な行動が面倒だから恋人を作らなかったのでは?と思ったのだが、さすがに何もしないで口だけで広めるのには限度があるかららしい。
それに、どうせ登下校はしないといけないので、手間にもならないかららしい。
俺にとっては地獄以外なんでもないと言うのに…。
だって、視線が矢のように突き刺さるのだから。
「なんか、余計に明日が嫌になったな……」
俺は一抹の不安を抱えたまま、眠りにつくことにした。
翌日、俺はすごいローテンションで集合場所へと向かっていた。
「学校行きたくねぇ…」
俺は、昨日とはまた違った理由でため息をつきながら歩いた。
それにしても、わざわざ駅で集合だなんて、少し面倒ではないのだろうか。
下校は確かに大した手間ではないが、登校はやはり少しだけデメリットが強い気がするが…。
「他に理由がある…とか?なんて、そんな訳ないか」
頭に浮かんだ一つの可能性。
俺とわざわざ偽の恋人関係になる理由。
しかし、深く詮索するのはナンセンス。
実際の恋人でもないのに、他人の人生に深入りするのはよくない。
ま、これ以上は何も考えない方がいいだろう。
そんな感じで一人で納得しているうちに待ち合わせ場所の駅まで来ていた。
「ここで待ってればいいのか」
俺は、改札口から少し離れたところで壁にもたれかかって夢を待った。
そして、数分経った頃、突然声をかけられた。
「おはよう、千尋」
「あぁ、おはよう。夢」
俺に話しかけてきたのは勿論待ち人の石永夢。
彼女は、いつも教室で話しかけてくる感じで接してきた。
てっきり恋人らしい感じかと思っていたが、彼女が言っていた通り、そう言った面倒ごとは嫌みたいだ。
これなら、今までとあまり変わらない接し方でいいので、少しは楽かもしれない。
「随分と早く来たのね」
「最初っから遅れてバラされたら元も子もないからな」
「確かに、それもそうね」
そうして、俺たちは少し距離を開けて並んで登校した。
登校する途中もしてからも、案の定、俺たちの話題で持ち切りだった。
「あの二人、付き合いだしたらしい」「なんか親の再婚で義理の兄弟になったらしい」「実は親の決めた許嫁で、同棲しているらしい」等々。
かなりぶっ飛んだ噂が広まっていた。
答えは最初だけなのに。
「よう、千尋」
「なんだよ裕翔」
昼休み、噂がひと段落して少し休憩していると、裕翔が俺に話しかけてきた。
俺は、どうせこの状況の話だろうと思って、軽く流そうとした。
「調子はどうよ」
「ぼちぼちだ。正直、思ってたよりも噂がいろんな方向に広がっててビックりしてる」
「確かにな。実際の所、付き合ってんだよな」
「まぁな」
思った通り夢との関係の話だったので、俺はさっと流した。
しかし、裕翔は恐らく本題であるだろう話をしてきた。
「しかしまぁ、俺はてっきり西宮さんとできてるんだと思ってたんだけどな」
「なっ…!?」
俺は、西宮の名前が出て少し動揺した。
美少女四天王の一人で、優しく控えめな性格な女の子だ。
セミロングの茶髪で、目はぱっちりとしたくりくりな茶色い瞳で、出るところはなかなか出ていて、引っ込むところはしっかりと引っ込んでいる。いわばスタイル抜群という訳だ。
それなのにこの性格なので、告白を断るにも一苦労だから、四天王の中で唯一あまり告白されていないがモテているというタイプなのだ。
そして、彼女は……
「お前、西宮さんのこと好きだったろ?」
「ッ…!!」
そう、俺の好きな人なのだ。
入学式以来一度も話していないが、紛れもなく一目惚れをした女の子なのだ。
しかし、俺は今、残念ながら夢の彼氏役なのだ。
だから、恐らくこの気持ちを表に出すことはできないのだ。
俺は、ニヤケそうになる頬をぐっと堪えて、自分の気持ちに嘘をついた。
「いや、好きって訳ではねぇよ。ただ、可愛いなとかは思ってたけど」
「ふーん。ま、確かに可愛いもんな」
「そうそう。俺の彼女は夢なんだし」
「それもそうだな」
俺は自分で言ってて少し胸が痛くなったが、これでいいと自分に言い聞かせた。
どのみち、関わりなんてなかったんだから。
そんな話をしていると、予鈴のチャイムが鳴った。
俺たちは元の席に戻って次の授業の準備へと向かった。
ただ、裕翔の反応が少し気になったが、気のせいだと思うことにした。
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