1話 学園には美少女四天王がいる

 突然ですが、質問です。


「あなたの学校には、学園のマドンナ的存在の女子はいますか?」


 多分、大体の学校には一人ぐらいはいるんじゃないだろうか。誰が見ても美人だと思われるような女子が。


 そして、俺こと鈴橋すずはし千尋ちひろの通う宝高たからだか学園にも、『美少女四天王』と呼ばれる四人の学園のマドンナ的存在の女子がいるのだ。


 美少女四天王は、校内外問わずに人気が高く、連日告白三昧だと耳にすることもしばしば。


 しかし、そのことごとくを断っていると言うのがこれまた驚きだ。

 噂では誰か思い人がいて、それが理由で断っているのではと言われている。


 そして俺も、そんな四天王のうちの一人に恋をしていた。


 出会いは入学式の日。そして、その日以来未だに話していない女の子…。

 まぁ、今そんな話をしたら日が暮れてしまうのでまたの機会で。


「よし、準備万端。行ってきます」


 俺はそう呟いて、家を出た。

 何故呟いたのかと言うと、今家には俺しかいないからだ。


 いや、実際は俺と義妹の二人暮らしだ。


 二年前に俺の父親と義妹の母親が再婚して、新しく家族が増えた。

 そして、今年から海外赴任となった父さんに、母さんが付いて行ったため、今家には二人しかいないのだ。


 義妹は現在中学三年生で俺の一つ下。

 才色兼備、文武両道の天才型で、今日も部活の朝練に行っていたため、俺一人しかいなかったのだ。


 今日はゴールデンウィーク明けの登校日なので、少しソワソワしていたため、あんなことを思い出していたのだ。


「なんか、長期休暇明けの学校って本当にやる気出ないんだよな……」


 俺がそんなことをため息をつきながら呟くと、後ろから誰かに声をかけられた。


「朝から溜息って、千尋らしくもないね」

「あぁ、結衣か」


 今話しかけてきたのが、沢野さわの結衣ゆい

ボブカットのブロンドヘアが特徴的な可愛らしいタイプの女の子。目鼻立ちは整っており、身長は少し低いが、胸はそこそこ大きい。

俺の幼馴染みで、実は美少女四天王の一人なのだ。


「どうしたの?何かあったの?」


俺がそんな事を考えていると、結衣がそう問いかけてきた。


「いや、長期休暇明けの学校ってダルいなーって思っただけ」

「確かにそうだよね。ちょっとダラダラしたくなっちゃうよね」

「そうなんだよなー」


俺はそう嘆いて、空を見上げた。

春と夏の中間のような5月は、暑くもあり涼しくもある。そんな空は綺麗な水色で、夏の青々とした空にはまだ遠かった。


「でも、ちゃんと学校に来たんだから偉いね」

「子どもじゃねぇからな」


結衣が、俺のそんな姿を見てそう言ってきた。

結衣とは昔からの付き合いだったから、そのせいで姉と弟みたいになっている。

しかも、未だに俺のことを弟の様に見ているのが気になる所だ。


「確かにそうだよね。ごめんね」

「いいよ、別に」


そんな感じで、俺たちは一緒に登校した。



「それじゃぁ、またね」

「あぁ、また」


 学校に着いた俺たちは、クラスが違うので教室の前で別れた。


 それにしても、いくら幼馴染みとはいえ、美少女四天王と一緒に居ると周りからの視線が痛い……。


 仕方がないとは分かっているのだろうけど、やはり嫉妬のような物は男なら持つようだ。


「相変わらずだな、千尋」


 そんな風なことを考えながら席に着いた俺に話しかけてきたのは、佐藤さとう裕翔ゆうとだった。


 こいつは俺の高校に入ってから初めてできた友達で、結構一緒に居ることの多いやつだ。

 かなりフレンドリーなタイプの性格で、別に性格イケメンとか、顔がイケメンとかではないが、そこそこモテる。


 そんな奴が、何でこんな極平凡な俺と友達なのかと言うと、そこには趣味が関係しているのだが、これがまた簡単に説明できないので割愛させてもらう。


 まぁそんな訳で、俺と裕翔は結構一緒に居るので、いつもこんな風に話しかけてくるのだ。


 だから、俺もいつもの調子で返した。


「あぁ、ほんとに慣れねぇよ」

「確かに、あの美少女四天王の一角だもんな。そんな人が、お前みたいな平々凡々なやつと仲良くしてるのを見ると嫉妬ぐらいはするだろ」

「平々凡々って、自覚はしてるけど人に言われるとちょっと傷つくな…」


 俺はそう言って、少し大げさに心臓の辺りを抑えるジェスチャーをした。


 そんな俺を見て裕翔は「大げさだなー」なんてことを言っていた。


 そして、俺たちが談笑をしていると、一人の生徒が俺たちに話しかけてきた。


「おはよう。裕翔と鈴橋」

「おはよう、石永さん」

「おはよう、夢」


 今俺たちに挨拶をしてきたのは、学園美少女四天王が一角にして、ナンバー1と名高い石永いしながゆめ

 赤みがかった茶色の長い髪が、ふわっと膨らんでいるその髪型が特徴的で、性格は誰にでも壁を作らないので、男女共に人気が高い。

 だからナンバー1と名高いのだ。


 だから、たまに関わることはあるのだが、朝の挨拶をされたのは初めてだった。

 もしかしたら、裕翔に用事があるのかなと思って、席を立とうとしたとき、周りにバレないように石永さんがスッと何かを渡してきた。


 そして、耳元でそっとささやいた。


「この紙、後で一人で読んで」


 本当に一瞬でそれだけ告げて、周りにバレないように他の人の所へと言ってしまった。


 どうしようかと悩んでいると、予鈴のチャイムがちょうど鳴ったので、俺はそのまま授業の準備をした。




 そして放課後になった。


 俺は貰った紙を授業中にこっそりと見たのだが、そこには「放課後屋上まで来て。少しだけ話がある」と書いていただけだった。


 俺は、とりあえずその指示に従うことにした。


 理由は無いけど、告白とかではないのは分っているし、それに悪戯ではないのは直接渡されているので知っている。

 だから、多少怖くても行かないという選択肢はなかった。


「なんだろうな」


 俺はそう呟いて、屋上へと向かった。

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