難解な意味

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難解な意味

「4155325477」

 そう語るのは私の愛娘である。とても愛しい愛娘であるにも関わらず。この人生で一言も話している瞬間を見た事が無い。不思議で仕方がないが、どうにかして腑に落ちるようにするしかない。

「何してるんだい? 玖未。」

 恐らくだが、砂遊びをしている。それの確認で玖未に対して疑問を投げかける。

「3351113567468577」

 やはり砂遊びをしている事は言うまでもなかった。けれども、

 同い年の子と遊ばないのは心が痛む。

 五歳の娘だ、他の子と遊んでいても何ら不思議ではない。日本であるが故に、子供一人で遊びに行かせてやりたい気持ちは山々だが、この子の場合は独りになってしまって、誘拐事件に巻き込まれ兼ねない。そんな事は父親の私として断じてしてはならない事。

「1545133111057 1545133110551523244935557」

「お父さんはね、玖未の安全を守ってるんだ。何か大事があってはいけないだろう? だから、こうやっていつも一緒に居るんだ。」

「3513511054656 119226451377」

 本当に何もなければいいんだ。

 今日は何事もなく済んだ。私もこの子の言葉を理解するのにかなりの時間を要した。今も尚、憶える事に必死だ。

 砂遊びで泥だらけになった手を拭き、玖未の手を取ると、玖未は男の子を指差す。

「101413275113567411277」

「ダメだ、何かあってからでは遅いだろう。」

「311511462446219177」

「それじゃ、十分だけだぞ? それ以上は延ばさないからな。」

 それでも玖未は嬉しそうに快諾する。実際はもう少し長く居させてあげても良いと思っており、玖未が言いに来ない限り遠目で見るつもりである。

「ねぇねぇ、私も入れてよ。」

 私は開いた口が塞がらなかった。今まで言葉を発した事が無かったのに…今まで数字以外言わなかったのに…意味ある言葉の数列しか見せなかったのに、同年代の子との会話で初めて使った。

 どうしてだ? 疑問に疑問がおんぶにだっこ状態になってしまう程、頭の中が混乱してくる。

 現行まで隠していた? その可能性しかない。話せるのに話さないのは可笑しな話。それ以外の理由が有るなら聴いてみたい。

 私は嬉しい。嬉しすぎて逆に阿鼻叫喚としている。摩訶不思議な出来事も今日で終わると想うと肩の荷が下りる。

 苦労話も下世話な話になってしまいそうなのが少々気掛かりだが、愛娘の大きな進展に拍手喝采を進呈したい。物ではないが、もうそれくらいの出来事である。

 仕事柄様々な催し物にクイズや問題を提出したりする為か、それが遺伝し、一生直らないのかと思ったほどだ。最近もまたあそこから依頼があったばっかりだ。後で娘の件を報告しなければ。

 それからかれこれ一時間近くの時間が経った。もう独りではないように想えて、嬉しさが込み上げまくる。

 二時間近く経って、ようやく娘の方から来た。

「お父さんごめんなさい。十分以上経っちゃった。」

 いやいや、良いんだ。娘よ。

「そうだな、十分以上経ってるのはいけない事だな。だが、お前の楽しそうな姿を見ているとお父さん嬉しくなっちゃったよ。」

 娘の髪をくしゃくしゃと撫で擦るが、娘は嫌がる素振りを見せない。前は嫌がっていたが、それほど楽しかったのか。

「あの男の子二人とは仲良く出来そうか?」

「うん! あの二人すっごく優しかった。今まで独りだったけど、これからあそぼって約束したんだ!」

 私は深呼吸し、玖未に訊ねる。

「ところで玖未、数字で話すのは辞めたのか?」

「お父さん何言ってるの? 話したことないよ?」

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