【非公開】9月10日 君の告白
「私も、煌くんが、好きです」
「え」
間抜けな話だけど、告白しておきながら僕は君の答えに心底驚いた。脳神経が過負荷を起こして一斉にダウンして思考停止に陥る程に。だから多分、この時僕は、君に振られるつもりだったんだと思う。
君の前で僕はひたすら無知で無粋で凡庸な同級生だったはずだ。僕には君が僕のどこを好きになったのか全く分からない。今でも謎のままだ。
驚く僕に君は、言わなくてはならない事がある、と淡々と言った。
「煌くん、私ね」
君は自分の頭に手をやって、思いきり上に上げた。
僕が地毛だと思っていた、君の真っ黒で真っ直ぐな長い髪がすべて頭から外れた。
「へへ、驚いた?かつらなの」
かつらの下から現れたのは、ベリーショートと言える長さの細い巻き毛だった。
確かに驚いたけれど、この時僕の頭は君の告白によふオーバーヒートの直後だったからか、かつらについては「そうだったのか」くらいの感想しか無かった。
「…私、多分、煌くんに好きになってもらえるような、大した人間じゃ無いよ。煌くんにめちゃめちゃかっこつけてるだけ」
それについては僕は首を振った。君の言う、”かっこつけ”は身だしなみレベルのものだ。
そう言った僕に笑って、君は話をしてくれた。
3年前に最初のがんが足に見つかった事。父親が調べた病院で手術を受けた事。再発すると難しいと言われている中で半年ほど前に再発して、母親は仕事を辞めて看病してくれている事。弟も、君中心に回る生活の中で、文句も言わずに励ましてくれる事。僕に出会った頃は、最後に試していた抗がん剤も効かなくて諦めた直後だった事。
「私なんかいない方が、皆、幸せなのになって。早く死んじゃった方が、と思ったり、皆に励まされてるんだから、少しでも長く生きないと、とか、色々思う」
それこそ、カッコつけてくれてるなら少しは安心するのにな、と思う程、君は人の事ばかり気遣っていた。僕の事だけじゃなく、いつも。
そして、人の話をしている時にはすぐに流す涙を、自分の話をする時、君は決して流さなかった。
「病気の時に、他人の事なんてそんな、考えなくて良いよ」
という僕の言葉にも、
「でも私が死んだ後、カフカの”変身”みたいに”やれやれ”ってピクニックとか、行っちゃったりしたらやっぱり淋しいな、なんて。勝手な事も思うよ」
そう言って、少し
「煌くんは行ってね。ピクニック」
「ピクニックとか、行ったこと無いよ」と僕が言うと、君は髪型が変わったせいかいつもより幼く見える顔で笑った。
この日以降、僕と君は会える時は毎日会い続けた。
僕の一生で一番長い、9ヶ月を。
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