【非公開】9月10日 この頃の僕と蛍さんの関係について

 最初は、君と文芸部をつなぐという名目で。

 夏休みが終わる頃には何の名目も無く。

 僕は毎日、君の病室に通ってた。


 君が僕を“コウくん”と呼ぶから、皆は僕と君が付き合っているような誤解していたけれど、僕と君は全くそういう関係じゃなかった。


 たまに面会もままならなくなる君の負担にならないように、僕も、面会はごく短時間と決めていたし、そんな限られた時間で交わす会話は、初対面で交わすような表面的な、大抵、小説の話ばかりだった。

 何より、なんとなく、これ以上距離を縮めるのは、君に拒否されそうな気がしていたし、僕も君との距離を縮める事を望んでいたかと思い返すと…正直、何も考えていなかった。


 ただ、僕は君と話をしていたかった。


 僕の中には、君の日記や小説を読むことで形成された、君の人格と知識に対する絶対の信頼と憧れみたいなものがあって、君のそばにいて、会話をしているだけで、何か、自分が自分より上等のものになるような、そんな感覚を持っていた。

 僕がその感覚を味わいたいが為に、深刻な病におかされた君の時間を僕にかせているのだとすれば、それはひどく自分勝手な行為だし、本当にそれだけなら、僕は、病の君の病室に一方的に通い続けたりはしなかった。


 僕は、君に伝えたいと思っている事があって、ずっと伝えるタイミングを伺っていた。

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