〘非公開・蛍〙7月23日 初めて煌くんと私が会った日。


 ピアノのコンサートで初めてコウくんを見た時。


 あ、あの人、“コウくん”っぽい、って、思いました。


 譜めくりしてる煌くんは

 ピアノを弾いてる人の合図に気付かなくて。

 ミスした事に気付いてあからさまに慌てて。

 休憩中に一生懸命謝って。

 でも、なんだか楽しそうで。


 少し抜けてて、真面目で、優しそう。

 “篁くん”の日記どおりのコウくんがいました。


 あの譜めくりの人が“篁くん”だったら。


 もし、私が今、日記に、このコンサートの事を書き込めば、私に気付いてくれるだろうか。


 コンサートの休憩時間に、いつも使ってるタブレットにいつもどおり日記を打ち込みながら、公開ボタンを押す時になって、ふと、そんな事を考えました。


 でも、私に気付いてしまうかもしれないと思ったら、公開なんて、出来ないと思いました。


 もし、あの譜めくりの人が本当に“篁くん”で。

 私に気付いて、仲良くなって。

 私の病気を知ったら。


 きっと、悲しませてしまう。

 私が死ぬ時には、泣かせてしまうかもしれない。

 そう思いました。


 私のせいで、悲しい気持ちになる人を増やしたくなかった。

 私、誰かが私のせいで、何かを我慢したり、私に隠れて泣いたりするのは、もう、嫌だと思ってました。


 だから、日記を下書き保存して、タブレットを閉じました。


 タブレットを閉じて、私が目を上げたら。

 煌くんもスマホから目を上げて、私と目が合って。

 煌くんが目を逸らさないから、私も逸らせなくて。


 多分、コンサート再開のアナウンスまでの、ほんの一瞬の事だった、って、後から思ったんだけど。

 だけど、私、あの一瞬、時が止まったように感じました。


 さっきまでは、煌くんが“篁くん”でも、私に気付かれない方が良いって思ってたのに。

 煌くんが“篁くん”なら、流れに任せても、許されるかもしれないって、都合良く、思ってしまいました。

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