40. アルバート対策会議

 ソフィアが帰った後、彼らはふたたび他愛のない会話を再開したが、その輪の中にアルバートがいるのはやはり違和感があった。

 だがリンデが上手くアルバートに話を振るため、彼も自然と雑談に参加できている。相変わらず嫌味な口調ではあったが、会話はむしろ弾んでいるといってもいいほどだ。エルはしばらく我慢していたが、だんだんと痺れを切らしはじめた。

「なぁ、ちょっといいか。向こうで話したいことがあるんだけど……アルバートはそこで待っていてくれ」

 他の少年たちも同じようなことを考えていたらしく、そそくさと立ち上がった。だが当然、アルバートにとっては面白くない。

「向こうへ行って、みんなで仲良く俺の悪口かよ」

「かもな。……すぐ終わるから、そこで待っていてくれ」

 憮然とするアルバートを残してグラウンドの中ほどまで来ると、彼らは円形になって向かい合った。エルが切り出すより先に、ジャッキーが話し始めた。

「どうするんだよ、あいつ。これじゃあ、魔女の家を探しに行けないぜ」

 まだ情報を共有できていないリンデは、きょとんとした顔で一同を見た。少年たちは代わる代わる口を開き、彼女に午前中の出来事を説明した。

「なるほど、そんなことが……。みなさん、ありがとうございます。わたしのために動いてくださって」

「なぁリンデ、アルバートに帰るように言ってくれないか」

 エルは回りくどい言い方ではなく、はっきりとそう頼んだ。

「きっと俺たちが言ってもあいつは聞かない。それだと探索が進まないだろう」

 不思議な言葉を耳にしたとでもいうように彼女は首を傾げ、エルに言った。

「アルバートにも一緒に来てもらえば良いのではありませんか? わたしのことを彼に話して――」

「それはダメだ!」

 エルはすぐさま反対した。

「どうしてですか?」

「あいつは今まで、俺たちに散々嫌がらせをしてきた。ちょっと君の手伝いをしたからって、それを許したりできない。それに、あいつは町長の息子なんだ。リンデも今朝、家に来たレイモンドを見ただろう。あいつがもし父親に君のことをバラしたりすれば、君がどんな目に遭うか分からない」

「わたしは、アルバートは信用できる人だと思います」

「君はあいつを知らないからだよ」

 二人の会話に、アイクが落ち着いた声で入ってきた。

「俺もエルと同じ気持ちだ。だけど、ここであいつに帰ってもらったとして、そのままあいつが素直に家に戻ると思えない。間違いなく、俺たちの後を付けてくるだろう。そうしたら、余計に面倒なことになるかもしれない」

「動けないように縛って、その辺に転がしておくか」

 ジャッキーの冗談に、アイクは真面目な調子で応えた。

「そんなことしたらもっと面倒なことになるだろうな。俺はリンデの言うとおり、あいつも連れて行ったほうがいいと思う。もちろん、本当のことは話さない。アルバートにとって、あくまでもリンデはサントークから野球を観に来た俺の従姉だ。それで、今から魔女の家を探しに行く理由については、適当な別の話をでっち上げるんだ。そうだな――」


 話がまとまり、少年たちはぞろぞろとツリーハウスのそばへ戻ってきた。アルバートは先ほどと同じ場所に座り、ふてくされた表情で彼らを待っていた。

「悪い、待たせたな」

 こういった場合の通例に従い、アイクが彼らの代表として話を切り出した。

「実は、俺たちは昨日からちょっとした探しものをしてるんだ。それをお前に話していいものかどうか、みんなで相談してたんだよ」

「へぇ、捜し物ね……」

 アルバートは曖昧な態度で相槌を打った。

「実は、クレストには昔からの伝説があるんだ。なんでもそれは、サントークに宝物が眠っているとかっていう話らしい」

「宝物って……まさかアイク、そんなことを信じているわけじゃないよな」

「まぁ聞けよ、俺たちもリンデからその話を聞いた時はそう思ったよ。だけど、昨日図書館で調べてみたら、実際にそれらしい手掛かりを見つけてさ――」

 アイクはつい先ほどでっちあげたばかりのストーリーを滔々と物語った。虚実入り交じったアイクの話術は巧みで、アルバートが徐々に話に夢中になっていくのが見て取れた。

「――それで、今からその魔女の家ってのを探しに行こうと思うんだ」

「へぇ……ちょっと信じられないけど、面白い話だね」

「だろ? 俺たちはすぐにでも出発するつもりなんだ」

 少年たちはアルバートの次の言葉を待った。こちらから誘うようなことはしない、というのが話し合いで決まったことだった。

「アイク、俺も一緒に行ってもいいか?」

「いいとも。だけど、このことは町長――お前の父親には黙っていてくれ。大人に介入してほしくないんだ。それと、さっきみたいにエルに突っかかるのも無しだ。守れるか?」

 アルバートはじっとアイクを見つめ、それからリンデを見た。断ってくれ、とエルは心のうちで強く願った。だがそんなエルの思いも虚しく、アルバートはアイクの条件を承諾した。

「分かった。父さんには言わないし、今日のところは俺のほうからストームにちょっかいを出すこともしない」

「それでいい。じゃあ、これで決まりだ」

 そう締めくくったアイクの口調には、異論はなしだ、という明確な意思が込められていた。

 気に入らない。心の底から気に入らないが、この期に及んでエルが不満を述べ続けても愚痴になるだけで、これ以上状況は変わりそうになかった。

「よかった。よろしくお願いします、アルバート」

 リンデがアルバートに笑顔を向けた。ロビィとフレディも話がまとまって安堵しているようだったが、相変わらずジャッキーだけはふざけた調子で軽口を叩いた。

「これは面白くなってきたねぇ」

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