13. リンデのはなし 2

「わたしはここへ、『あるもの』を探しにきました。それがどんな形状をしているのか、どのような様式なのか、残念ながら分かっていません。ですが、一刻も早くそれを見つけなければなりません」

「えっと、つまり――」

 アイクは仲間たちを見回し、一呼吸おいてから言った。

「なにを探しているのか分からないってことか?」

「いえ、そうではありません。わたしが探しているものは『ブレース』と呼ばれています」

「ブレース。みんな、聞いたことあるか?」

 少年たちは首を振る。

「とても古くて貴重なものですから、おそらくはどこか人目に付かない場所に隠されているはずです」

「なるほどね。他に情報は?」

「断定できるのはそれくらいでしょうか……もしわたしがブレースを目にすれば、すぐにそれだと分かると思うのですが」


「そんなの探しようがないじゃん」

 ジャッキーは地面に座り込むと、大袈裟にため息をついた。

「てかみんな、この人の話を信じてるわけ? 俺は変人としか思えないけど」

 すかさずエルは反論した。

「俺は彼女が乗ってきた宇宙船とかっていうやつに触ったし、実際にその人がそこから出てくるところも見た。お前も、昨日の夜に青い光が球場の上を飛んでいったのを見ただろう。あれが宇宙船じゃなかったら、何だって言うんだよ」

「分かんないけど、でもやっぱり宇宙人だなんて信じられないって。だって、どう見たって俺らと同じ人間じゃん。ちょっと髪の色は変わってるけどさ」


「たしかに、あなたの疑問はもっともです」

 リンデはジャッキーに向かって微笑んだ。

「わたしがあなたと同じような外見的特徴を持っているのには理由があります。実は、わたしたちの祖先は同じものなのです。その昔、わたしたちとあなたがたの先祖は別の道を歩みはじめました。この大地に残ったあなたがたと、宇宙へ上がったわたしたちです。みなさんが宇宙で暮らすわたしたちのことを知らなかったとしても不思議ではありません。わたしとあなたたちの先祖が分かたれたのは、あまりにも遠い、遥か昔のことなのですから」

 少年たちはぼんやりと視線を泳がせながら黙っていた。よく晴れた夏の朝に聞かされるには、あまりに突拍子もない話だ。

 こういう時、最初に何かを言うのはいつもアイクだ。

「みんな、ちょっと」

 彼は意味ありげに仲間たちに目配せをする。

「すまない、リンデ。少し俺たちだけで話をしたいんだけど」

 リンデはすぐに了承した。

 少年たちはツリーハウスからサイクリングロードを挟んだ向こう側にあるグラウンドへ向かった。グラウンドの中央あたりで円形に向かい合うと、エルはすぐに口を開いた。


「話なら、あの場所ですれば良かっただろう」

「エルはあの人を信用しているみたいだけど——みんなはどうだ?」

「信用するも何も、話がぶっ飛び過ぎてる」

 ジャッキーが吐き捨てるようにこぼした。

「そうだねぇ……話してることがめちゃくちゃだよ」

 ロビィも丈の短いシャツの袖を引っ張りながら、ジャッキーに同意した。

「正直、俺もあの人を信用していいのか分からない」

 そう言ってからすぐ、アイクは自分の言葉を否定するように首を振った。

「いや、信用したからどうなるって話じゃないな。とにかく、俺たちじゃどうしようもない。俺はあの人を大人に任せたほうがいいと思う」


「ちょっと待てよ」

 エルはアイクの言葉に即座に反応した。

「ダメだ。それは絶対にダメだ」

「エル、冷静になれ」

 落ち着き払っているアイクの表情が、エルにはどこか冷たく感じられた。ためらいのない茶色い瞳が、真っすぐにエルを見つめている。

「もしあの人の言っていることが本当なら、この世界の人間じゃないんだ。宇宙っていうのはあの青くて、ものすごく高い場所のことだ。あんなところに人がいるなんて、今まで考えたことがあったか? 

 俺はないね。俺が知っているのは五〇〇人が住むこの町と、六〇キロも離れた隣町のクレストに住む二,〇〇〇人の人たちだけだ。ずっと東にある首都や他の大きな町ですら、俺は見たことがない。そんな俺たちが、延々と彼女の話を聞いてなんになるんだよ。分からないことだらけじゃないか。……まぁ、エルは俺たちよりも多少は知っているようだけど」

 含みのある言い方だったが、そこには触れずにエルは反論した。


「俺だって分からないことだらけさ。でも、だからこそ知りたいんだよ。アイクは違うのか?」

「もちろん知りたいさ。でも、だからって大人には任せられないってことにはならないだろう。もし彼女の話が本当なら町長や警察がちゃんと調べてくれるし、みんなにも説明してくれるはずだ。それに、昨日の青い光のことを心配してる人もいるんだ。俺たちよりも賢い人たちに任せたほうがいい」

 それはあまりにもアイクらしくない台詞だった。彼は同級生の中では誰よりも落ち着いていて、皆から頼られてはいるが、決して大人に何かを委ねる男ではない。

 ツリーハウスを作った時も、グラウンドを使うために町役場と交渉した時も、フレディをいじめていた上級生たちと決闘した時も、いつだってアイクは大人に頼ろうとはしなかった。

「どうしたんだよ、アイク。いつものお前なら、そんなこと言わないはずだ」

「俺は……俺はただ、心配なだけだ」

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