第3話 小さいチヒロに会いました。


俺は前世大好きだった漫画の中のサブキャラ――主人公の2人をくっつける愛のキューピットという大役を背負った男として生を受けたことを自覚した後、白島結城と黒原千尋を様々な危険から守ることを決意した!




 ・・・・・・ということもなく、




 ストーリーとかあまり意識せずに第2の人生を謳歌しようと決心した。








 だって憧れてたんだもん!!


 『あー、次この世界に生まれたい。そんでできればチヒロとかと学生生活エンジョイしたい・・・・・・』って思ってたんだもん!!


きっと何が待ち受けていようとも2人はそれを乗り越えてより固い絆を結ぶし、俺が何かする必要はないと思う・・・・・・。むしろ俺の場合、漫画を意識しすぎて逆に変な行動とかししそうだし。うん。 だからサブキャラはサブキャラらしく大人しく自由に生きていくぜっ!つかそうさせてくださいっ。








 キャラの役目はできる限り全うしようと思うし、まぁ運命というか流れには逆らえないだろうからそこはしょうがないと思うけど・・・・・・役目さえ果たせば俺は俺としてこの憧れてた世界で楽しんでよくね?って思います。


まあ自由に生きることを考えると一つだけ不安な要素があるんだけど。






 それは2人の関係が親密になったり、とにかく2人の成長のために必要なイベントを潰してしまいそうだということだ。作中、とにかくいろんなライバルキャラがそれはもうわんさか出てくる(全員イケメン)が、俺は主人公(受け)の相手役(攻め)にライバルが出現するというパターンが好きだから、受けにライバルが出てくるとすごーく嫌な気持ちになる。特にぶりっこで中身腹黒とかな!!そういうムカつく展開になりそうな時とか、大人しくキャラの行動に収まれないかもしれないのだ。


 でもまあこの作品だけは、どっちにライバルが出てきてもとにかくムカつく!俺、けっこうチヒロとユウキが好きだから。






 けど、さっきも言ったように俺は所詮サブキャラ。だから物語の邪魔はしないように(出来もしないと思う)出しゃばりはしないけど、チヒロとユウキの身の安全をできる限り守りそして地味にキューピッド役を果たそうと思う。
















 そして今、俺はこの世界の真柴真希として幸せを噛み締めながら生活している。


 お父さんもお母さんもいる!!一緒に暮らせている!!一緒にご飯食べれる!!


 もう最高だった。


 今まで一人ぼっちで施設では他の子ども達と育ってきたが心はいつも一人だったことを思うと、本当にここに生まれてこれてよかったと心から思い、時々涙が出てしまう。そしてそれをお母さんに見つけられ、お父さんと共に全力で慰められる。本当に幸せだ。




 俺は毎日できる限りお母さんの手伝いをした。料理の手伝い、食器洗いの手伝い、掃除の手伝い、洗濯物を畳む手伝い、アイロン・・・は、まだ危ないからと止められらが、今まで一人暮らしで培ってきたスキルを存分に使い、全力で手伝いした。お母さんには『マキちゃん天才!!』と叫ばれた。


 前世では人間関係を諦め、人に臆病になっていたことから思っていることを心の中に留めていたが、今では気持ちを積極的に伝えられるし、やりたいと思うことをすることができる。生まれ変わったんだからせっかくだし好きに生きようという思いもあるからだが、自分に忠実にそして自由に生きているって感じだ。












 しかし・・・一応守ると決意したのはいいが、一体どこでいつチヒロと出会うのだろうか。小さいチヒロがどこかで怖い目に遭ってないか・・・・・・俺超心配。


 主人公を中心に描かれていたから、チヒロとマキの過去などはあまり描写されていなかった。


 それとも、作者は後に2人の過去が語られるシーンを執筆しようとしていたのだろうか・・・・・・まあ、その気があったとしても、もう本人が生きているのかさえわからない状態だけど。






 当然サブキャラのマキの言動が全て漫画の中で描かれている訳ではないから、幼少期や小中学校、高校でも描かれていない時間はどのように行動すればよいかがわからない。まあ作者がいなくなって生きる気失せてから、何も食べずにずっと部屋の床で今までの漫画読んでたから、反対に漫画に描かれているシーンの台詞や行動はまあまあ覚えているけどね!! たぶん・・・・・・








 ・・・・・・さっきは見栄を張ったけど、実は前世の記憶はふんわりとした形でしか今の俺の中ににはない。こちらで赤ん坊として目が覚める直前に前回の生が終わったような気がするし、反対に生まれ変わるまで長い時間が経ったような気もする。死ぬ前に読んでいた漫画の記憶も、まるで夢のようにぼんやりとしか思い出せないのだ・・・・・・






 




 ま、とにかくチヒロを見かけたらなんとかして仲良くなって相棒にまで登り詰めればいっか。


 と、当時のマキは自信満々であった。






















 そういえば、俺って今めちゃ強いんじゃね!?


 前世は喧嘩っ早かったけどどちらかというと身体は弱い方だったから、漫画を読んで『ケンカとかかっけぇ!!』って思って少し憧れてたんだよなぁ。


 チヒロにはかなわないもののチヒロがNO.1で、マキはNO.2と言われていたから、俺も相当強いはずだ。うひひ、楽しみだなあ。




















 と、思っていたけど・・・・・・


 なんと、俺は、今回も身体が弱いらしい・・・・・・。




 なんだか身体が一日中重だるいのだ。まるで血が通っていないみたいな気持ち悪くて嫌な痛み。


 本当になにもやる気が起きない。






 動く気がしなくてじっとして本とか読んでいると、すぐに咳き込んでしまう。


 ぐで~としていると、もっとだるくなってくる。


 どうしてだっ!?強靱な肉体じゃないのかっ!??






 お母さんとお父さんに心配かけたくないという思いから、なるべく調子が悪いことを悟られないよう元気に努めて、俺はお母さんに毎日『外で遊んでくる~!!』と元気よく外へ駆けだしていった。


 おそらく彼女は薄々気づいているだろうな~。今日の夜くらいに『無理しないでいいのよ』とか言われそうだ。俺の両親は本っ当に過保護だから。 嬉しいけど。










 公園の端の木陰の所でしゃがんでタンポポやアリの動きを見つめていると、次第に胸が苦しくなってきた。ドクッドクッと脈拍が速くなってきて、それに合わせてハァッハァッと呼吸も速くなってくる。


 くるしい・・・・・・気持ち悪い。頭も痛くなってきた・・・・・・でも帰ったらお母さんが心配する・・・・・・・・・








 そのとき、いきなり背後の草むらの向こうから子どもの喧噪が聞こえてきた。


 何だろうと頭を上げて背後の草むらの向こうを覗いてみると・・・・・・




 そこでは戦闘が繰り広げられていた――。




 しかも1対3。さらに自分とそう年が変わらなそうな子どもたち・・・・・・


 でも1人の方が押してる。す、すごいっ!・・・・・・っていうか、1人の方、チヒロだった――――!!!!


 マジか。チヒロ、小さい頃から強いんだな。俺とは大違いだ・・・・・・。






 相手はよくイメージしやすいいじめっ子みたいなやんちゃな風貌のボスに、2人の子分 (たぶん)だった。




 チヒロがボスの顔を殴る。(ボカッ)うわっ、痛そうな音・・・・・・


 だがボスは怯まずチヒロに掴みかかった。チヒロはボスに集中している。


 周りで尻餅をついていた、先にやられた子分の一人がそこら辺にあったかなり太くて長い木の枝を掴み、ボスと戦闘中のチヒロの頭に背後から思いっきり振りかざそうとしている。




 卑怯な――!!!




 俺の身体が勝手に動き、草むらからすごいスピードで駆け出してチヒロに振りかざされた木の枝をチヒロに当たる前につかみ、相手の腹を思いっきり蹴った。


 もう身体の不調なんて忘れていた。




 背後でボスのうめき声と地面に倒れる音が聞こえた。


 後ろを向くと、チヒロが顔だけでこちらを向いていた。漫画の中では想像できない、初めて見る彼のすごく驚いた顔だった。




 「おまえは、おれがまもるからな」




 そう言い、俺はにかっと笑った。


 すごく清々した気持ちになった。いつものだるさなんか吹っ飛んでいて、心も身体も爽やかで、何でもできそうな心地になった。
















 それから相手はもうそりゃあタフなことで、何回もかかってきた。


 何なの、体力オバケなの、君ら。






 やっと相手が『おっ、覚えてろよ!!』なんていう捨て台詞を吐いた時には、俺が加勢してから結構な時間が経っていた。
































































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る