第2話 “真柴真希”に生まれ変わった!!


 

 意識がぼんやりする。なんか、誰かに抱きかかえられているような感覚も。


そして、周りに数人の人の気配も感じる。


あれ・・・・・・?てか俺、今泣いてる?口開いてるし声だしてるよな、俺・・・?


ああ、いつぶりだろうか、こんなに声を出して泣くなんて・・・・・・


俺はいつの間にか意識を失った。




 目を開けると、白くて綺麗な天井。となんか可愛いものがぶら下がっている。なんて言うの。あれ、あのー・・・ベットメリー?だっけ?ベビーベッドの上で回転しながら音が鳴るあれ・・・がある。自分の部屋にはこんな綺麗な天井も、回りながら音鳴るやつもなかったはずだとぼんやりと思う。




 しばらくの間微睡んでいると、次第に頭が覚醒してきた。




 『なんか、自分の身体の感覚が・・おかしい・・・?』






 俺は身体になんとも言えない違和感を抱いた。なんとなく、気持ち悪い・・?感じがする。


 起き上がろうとしたが、身体が動かない。っていうか動かせない!?動かそうとしても身体が揺れて手足がバタバタするだけでどうしても起き上がることができなかった。




 『おかしいぞ・・』




 視界に入るように手を伸ばしてみる。・・・小さい。俺の手、ちっさ!!


 え!?どゆこと??






 と、パニックになりながらも考えていると、俺はようやく思い出した。






































































  ――俺って、死んだっけ?










 俺の唯一の生きがいだった『鼠になれっ!』の作者がいきなり失踪したのだ。突然のことで、テレビでその事が報道されたときは、唖然とした。


 ファンの中では作者による「強制終了」という言葉が囁かれた。作者の消息不明に、大人気漫画『鼠になれっ!』は事実上終わってしまったのも同然だった。




 信じられない。『鼠になれっ!』が終わった。強制的に。


 白島結城も、黒原千尋も真柴真希も、高校を卒業することなく。


 結城の素顔も永遠の謎となってしまったのだ。






 それから、俺は生きることに楽しさを感じられなくなった。


 毎日毎日同じことの繰り返し。生きるために食べ、生きるために働く。そして生きるために学ぶ。




 一体、何のために生きる?




         ――わからない・・・・・・




 大げさに言っているのではない。本当に、あの漫画は俺にとって生きる楽しみだった。


たまに本屋に訪れても、どれも面白くなさそうに思えてしまう。


次第に何にも感動できなくなった。感動する心が、何かに阻まれている感じだ。


何にも感動できない辛さを初めて知った。もう、全くの、無気力状態。


実際、労働と勉学の両立は難しく毎日本当に休まる時がなかった。何回も作品の情報を見るが何も変化はなし。1日がとてつもなく長く感じた。つまらない1日が。






 




 そして俺は、ある日から




                何もしなくなった。






 生きるために食べるのをやめた。










  そうして俺は、一人静かに死んでいった。






















 死んだんだよな?俺。


 じゃあ、もしかして俺、生まれ変わった――・・・・・・・・・?


 俺は今、赤ん坊なのか・・・・・・?




 とにかく誰か呼んでみよう。こんな赤ん坊にとって良い環境だ。声を上げればすぐに誰か来るだろう。




 「あーー!あーー!・・・あうっ!?あうあううえ!(おーーい!おーーい!・・・うわっ!?全然しゃべれない!)」(まあ当たり前か)






 「はいはーい! まぁ、マキちゃん。目が覚めたんでちゅねぇ~おなかすいたんでちゅか~?」




 部屋の向こうから元気よく出てきたのは、綺麗なピンクブラウンの少しウェーブがかった髪を横で1つ結びにしている若い、そして美人な女性だ。






 うっわ!美人な人!! っというか『マキ』だって!?


 また俺の名前はマキなのか?




 混乱しながらも、その女性に抱きかかえられあやされながら、女性の腕の中で『本当に美人だなぁ』と思っていた。


























 そして歳月が流れ、俺もまあまあ大きくなった頃、俺は自分のことをやっと理解した。


 成長していくにつれ、この国のことや世界情勢、自分の容姿を見て、俺は気づいた。








 そう。俺は、あの生きがいだった漫画『鼠になれっ!』のサブキャラで、黒原千尋の相棒、


           ”真柴 真希” に生まれ変わったのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る