弱みを握る姫と憎しみの騎士

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 長い間、辛い思いをしてきた。


 その人物は、苦しみを強いられてきた。


 しかしそれも、今日で終わる。


 多くの人を味方につけ、人脈を築き上げた。


 だから、反抗できるようになったのだ。




 その日、騎士は長い間仕えていた姫に述べた。


 無理やり仕えさせられていた、その軽蔑すべき主に。


 それは決別の一言だった。


「私は今日からあなたの言いなりにはならない」


 その騎士は、家族を人質にとられていた。


 才能のある騎士だったため、姫に目をつけられたのが不幸の始まり。


 便利なコマとして強制的に働かせるために、家族が囚われてしまったのだ。


 姫はことあるごとに家族の命を手に取って、騎士を脅していた。


 それで、騎士は様々な仕事を押し付けられた。


 その中には、命をかけなければならないような、危険な仕事もあった。


 けれど、騎士はやられっぱなしではなかった。


 姫の目を結んで協力者を見つけ出し、その者達と手を組んでいたのだ。


 同じような境遇の者達と。


 そして、今全ての準備がととのったのだった。


 騎士は、姫へ剣をつきつける。


「これで終わりだ。観念しろ」

「思い上がらないで、ただの騎士のくせに」


 剣をつきつけられた姫は激高する。


 そして、自らの手がかかった者達、周囲に並ぶ兵士達に、反抗者を排除するように命じた。


「お前達、この裏切り者を殺してしまいなさい」


 けれど、声を賭けられた者達は姫の言葉では動かない。


 なぜなら、彼等が協力者だったからだ。


 騎士と同じように弱みを握られた者達だった。


 彼らは、姫へ剣を向ける。


 姫はうろたえた。


 そんな姫に、騎士は状況をつきつける。


「ここまでだ。お前の罪は王に知れている。国の上に立つ者として在ってはならない行為だと言っていたぞ」


 王は良識のある人間だった。


 姫の横暴を知った王は、姫を必ず罰すると騎士に約束していた。


 姫に味方はいない。


 これで、もう姫はおしまいのはずだった。


 多くの騎士の弱みを握り、言う事を聞かせていた姫は、牢に繋がれることになるだろう。


 しかし、姫にはまだ手札があった。


 姫は人間だけでなく、ペットの弱みも握っていたからだ。


 姫が口笛を吹くと、ペットの竜が現れる。


 それは、子供の竜を人質にしているためだ。


 子供の身を思う親竜は逆らえないのだった。


「これで、形勢逆転ね。消し炭になってしまいなさい」


 ペットを呼びつけた後、高らかに笑い声をあげ、勝利を確信する姫。


「さあ、炎を吐いて燃やしつくすのよ!」


 しかし、竜は姫のいう事を聞かなかった。


 なぜなら、すでに子供の竜は騎士の手で救出されていたからだ。


「いいや、消し炭になるのは、姫。あなただ」


 竜が姫の方を向く。

 姫は信じられない、といった顔になった。


「そんなっ、いやぁぁぁぁ」


 怒りの感情で目を細めた竜は、姫を見据えながら大きく口をあけて、炎を吐く動作をした。


 姫はそれだけで、ショックをうけて気絶してしまったようだ。


 姫は泡を吹いて、床に倒れ伏す。


 受けた衝撃がおおきすぎたのか、丸一日は起き上がらなかったらしい。


 自由を封じられて運ばれていく姫を見つめる騎士は、安堵の息をはいた。


 長年横暴な姫に困らされてきた者達が、ようやく解放された瞬間だった。





 その後、好き勝手をしていた姫は、王の約束の元牢獄に繋がれる事になった。


 彼女はさらにどうやってか情報を知り、看守の弱みを握って脱獄しようと試みたのだが、騎士達の手によって阻まれる事になる。


 その後も似たようなやりとりが頻発したが、情報元である囚人が特定されてからは、何の騒動も起こらなくなっていた。


 牢屋での暮らしに適応できかった姫は、若くして早く、この世を去る事となった。




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弱みを握る姫と憎しみの騎士 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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