大きな勘違い

「きつい言葉ですまなかった。僕は大きな勘違いをしていたんだ」

「!?」

 ミサキはケンジの言葉の真意が理解できず顔を上げた。


「僕はこれまで、君のトラウマを治そう努力してきた。それ自体が誤りだったんだ」

「私……覚悟できてるから」

 ミサキはの鳴くような声で言った。


「あの日の事故の率直な思いを聞かせてくれないか?」

 不可解な問いに戸惑いつつミサキは答えた。


「予兆が三つそろって、まだ、その時は不運の予兆とは思ってなくて、それで事故に合って。気が付いたら病院だった。それで、ケンジがみてくれて、つらいリハビリをして、何とか社会復帰して……。やっぱ、あの三つは悪いことが起こる予兆だったんだなって思う」


「じゃあ、今はどんなどんな気持ち?」

 ケンジはミサキの目をジッと見つめた。


「今は幸せだよ。後遺症もなく生活できていて、仕事もあって。彼氏もいて」


「そこだよ、オレが勘違いしていたのは!」

「訳わかんないよ。言いたいことがあるならサッサと言って!」

 滅多めったに大声を出さないないミサキにケンジは少々、驚いた。


「じゃあストレートに言うよ」

 いよいよだ……。ミサキは覚悟をきめた。


「『三つの予兆は悪いことが起こる予兆』、それ自体が誤りだったんだよ!」

「まだ分からないわ」

「事故に合った。それは不幸なことだ。しかし、あの事故がなかったら僕らは出会わなかった。そして、君は今、幸せだと言ってくれた」

「……」


「つまり、『三つの予兆は幸せを呼ぶ予兆だった』 オレはそう思うんだ」


「!?」

 そんな視点で考えたことはなかった。


 これまで、事故の辛さばかりが気になっていた。確かに、事故がなければケンジと出会うことはなかった。

「一理あるけど、何だかだまされてる気がする」

 事故の印象が強すぎて簡単に受け入れられなかった。


「じゃあ、君が間違いだと証明する」

 ケンジはカバンに手を突っ込んで小さな物を取り出した。それは、小さな箱。

 ケンジは小箱を片手に乗せ、もう片方の手で箱を開けた。中には指輪が入っていた。


 小さなダイヤモンドが付いたかわいらしい指輪。


「オレと結婚してほしい」

 ケンジは箱をミサキの方に向けて頭を下げた。

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