本当の最悪はこれから?

(ふう、なんとか最悪は避けられた)

 待ち合せまで一時間以上ある。


(ショッピングモールで時間をつぶそう)

 ミサキは大好きな化粧品を見ることにした。

 

 ショッピングモールの入口に着いた。自動ドアの外側で若いカップルが言い合いをしていた。女性の方は泣いているようだ。


 気になったが立ち止まって聞くわけには行かない。歩みを遅らせ、聞き耳を立ててながら通り過ぎた。

「それって私をフッて、あの子をとるってこと?」

 ミサキは泣き声まじりの女性の言葉を聞いた。

 

 自動ドアを通過したところでミサキは立ち止まった。

(そうか、そのパターンを想定していなかった。最悪の出来事が起こるのはケンジとの食事でだ)


 ミサキは落ち着かなくなった。ウインドショッピングをする気分ではなくなり、ショッピングモールを出た。


 待ち合せ時間より、随分早く店に到着した。

「七時に予約している者です。早めに着いたので、先に待たせてもらえますか」


 ケンジお気に入りのレストラン。座る席はいつもテラス席。高台で見晴らしがよく、遠くに海が見える。


 ミサキはコーヒーを頼んで待つことにした。

(絶対、良くないことが起こる)

 そればかりが頭に浮かんできた。


 いつか、ケンジとレストランで食事をしていたときの出来事を思い出した。


 偶然、ケンジが友達からきた写真を見せるために携帯電話の見せてくれたときの出来事だ。

『例の約束の件、今週末でいい?』

 偶然その時に入ったメッセージのアイコンは明らかに女性のものだった。ケンジは急いで携帯電話を戻した。


 その時は気にしなかった。しかし、よく考えると疑わしい。医療の現場には女性の医者も看護師もいる。職場が結婚も多いとも聞く。そして、ケンジがモテない訳がない。

 

(私より条件のいい人なんていくらでもいる)

 そう思うと不安で押しつぶされそうになってきた。

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