回避策
手汗をスカートで
(あれ?)
ポケットに何か入っていることに気が付いた。
(そうだ。これだ! これしかない!)
「すみません。ここで、サンプルをお見せするするつもりでした」
ポケットに入っていたのは前日に仕上がってきたばかりの商品のサンプルだった。発表が終わったあとに見てもらう予定だった。
それを、急きょ使うことにしたのだ。
「続けてくれ」
役員がニコッと笑って言った。
「ここで、私が使ってみます」
ミサキはクルっと回転して体を壁の方に向けた。皆に顔が見えないようにするためだ。そして、アイシャドウを使った。鏡を使わずに塗るのは一か八かの賭けだ。これまでの技術を全て投入した。
そして、クルリと体を皆の方に向けこう言った。
「さて、いかがでしょうか?」
役員は真剣な目でミサキを見ている。
ミサキは負けじとアイコンタクトをした。
パチパチ……。
拍手が聞こえた。役員がこぼれるような笑顔で拍手をした。
「長い間、この仕事をしているがこんな発表は初めてだよ。面白い!」
その言葉を皮切りに場が和やかになった。そのタイミングを逃さずに課長が助け舟を出した。
「概要はお話しました。ここからは質疑応答ということでいかがでしょうか?」
資料に戻るのではなく、質疑に移った方が得策との判断だった
厳しい質問もあったが、ミサキは何とか準備した範囲で答えることができた。
「この企画、進めてくれたまえ」
役員は最後にそう決議した。
「ありがとうございます!」
ミサキは深く頭を下げた。部屋をあとにするとき、役員はミサキに小さくウインクをした。
(見透かされてたな)
そう思ったが、やり切った満足感はあった。
部署に戻ったミサキはドッと疲れが噴き出した。
「よくやったわ。お疲れ様!」
課長がねぎらってくれた。
「それにしても、あんなリカバー策よく思い付いたね~」
同僚もフォローした。
「今日は私がお昼、ごちそうするわ。外に食べに行きましょう!」
課長の誘いにミサキは元気よく、「はい」と答えた。
昼食から戻ったミサキは仕事になかなか集中できなかった。
「ミサキさん、今日は疲れたでしょうから残業はなしでいいわよ。明日からガンガン進めてもらうからね」
定時の直前に課長が言った。
「じゃあ、お先に上がらせてもらいます」
ミサキは皆に挨拶をして会社をあとにした。
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