大失態

(どんな不運も避けよう)

 会社の前で気合を入れた。


 ミサキはその日、休めない理由があった。役員の前で新しい化粧品の企画のプレゼンテーションを行うことになっていたのだ。


 自分が発表者になるのは初めてだ。上司に指導してもらい長い時間を掛けて仕上げてきた。


 プレゼンテーションは午前十一時から。自分で作った原稿を読み返してリハーサルをした。


 会議室には役員と商品企画部のメンバーが合わせて六名、座っていた。


(緊張するけど、がんばろう)

 発表を開始した。ミサキの部署は女性課長と同僚とミサキの三名。同僚がスライドを切替える役だ。


 発表内容は部署で企画を検討した新しいアイシャドーだ。ミサキは絶対にヒットすると思っていた。


 発表は十分間、スライドは十枚。最初の五枚までは原稿通りに順調に進んだ。

「次のスライド、お願いします」

 同僚が次がノートパソコンを操作してプロジェクタで壁に表示されているスライドを切替えた。


「へ?」

 映し出されたのは、猫のキャラクター。今、流行っているアニメ 「ニャんちゃって先生」 の主人公の三毛猫だ。


(やっちゃった!)

 ミサキは作成途中のスライドにこのキャラクターを入れることにしていた。気分を上げるためだ。表示されている資料は古いデータだ。同僚に送ったデータが最新じゃなかったのだ。


(やばい、これが最悪の事態か!)

 企画が採用されたらミサキは主任昇格試験を受けることになっていた。


(ここで、失敗したら主任の道が閉ざされる。昇進できずに後輩にどんどん追い抜かれて、会社の窓際にどんどん追いやられて……)


 悪いことが次々と頭に浮かんだ。


「大丈夫かね?」

 役員が雰囲気を感じ取って言った。


 冷や汗が背中を伝ったのが分かった。手にもベッタリと汗をかいている。


 課長の方を見ると、心配そうな顔をしている。

(中断するしかない。諦めるしかないのかな……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る