第2話 手紙──清花四二年 初夏

 先日は母の法事へ来て下さり、ありがとうございました。時が流れるのは早いもので、母を看取ってからもう十と二年が過ぎたのだと、最近よく思うようになりました。

 しかしいくつになっても、娘の時分、簑山のおじ様によく遊んで貰った記憶はやけにはっきりと憶えております。

 奥様が送ってくださった果実酒、昨日受け取りました。甘めのものと聞いたので、食後酒として楽しませていただきますね。

 そうだ。この間、久城の書庫(昔は御文庫と呼んでいたのでしたが、最近、書庫と呼ぶように変わりました。)を改めていたとき、簑山さんが編纂した論書がでてきました。今と変わらない綺麗な字で、でもどこか若々しさを感じる文でしたので、つい読み耽ってしまいました。探せば、母の書いたものも見つかるのかしら。いえ、あの人は自分で何かを著すよりも、人の著したものを保存し管理をすることが好きな人でしたから、論書の類いは書いてないかもしれませんね。

 繰り返しになりますが、本当に時の流れは成苗川なるながわのように早いものです。ついこの間、治正はるまさが陸軍大学に入ったと喜んだのに、彼、もう立派な少佐さんなんですもの。それに、何より嬉しいのは孫が産まれたことです!この子は大きくなったら治正のように将校さんになるのか、私や母のように久城家に仕官するのか、まったく気が早いことを考えてしまいます。

 さて、もう梅雨も終わり、山間のここ祿穣でも蝉の声が聞こえてきました。くれぐれも、暑さにやられぬよう、ご自愛下さいませ。

                 かしこ

 簑山晴樹様


 清花四二年六月二九日 篠原幸美

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