無能扱いされたキジ、桃太郎パーティーから追放される

青水

無能扱いされたキジ、桃太郎パーティーから追放される

「おい、お前。パーティーから出て行け」


 ある日、キジはパーティーリーダーである桃太郎からそう言われました。あまりに突然の出来事でしたので、彼は大いに驚きました。


「ど、どうして『出て行け』なんておっしゃるのですかっ!?」

「お前が無能だからだよ」


 鬼ヶ島に住む鬼を退治すべく、桃太郎は犬、猿、キジをお供にして、四名でパーティーを組んで旅をしていました。その道中のことでした。


 キジは、自分は桃太郎パーティーのメンバーとして役に立っていると思っていました。しかし、それはあくまでも自己評価であり、リーダーの桃太郎は彼のことを全く評価していなかったのです。リーダー――上司の評価はとても重要です。彼の気分次第で、こうして追放処分を受けることもあるのです。


「わ、私はこのパーティーの一員として、今まで懸命に頑張ってまいりました。それなのに――」

「頑張ったとしても、成果は出てないだろ、この無能がっ!」

「……」


 キジは自らの機動力をいかして、主に敵を撹乱させたり、囮になったりしていました。自分では重要な仕事をこなしていたと評価したのですが、桃太郎はそれを役立たずと判断したのです。犬と猿はもっと直接的に、役に立っていました。


「さっさと出て行け! 失せろ、クソ野郎!」


 おじいさんとおばあさんに甘やかされて育った桃太郎は、自己中心的な人格を形成し、口も滅茶苦茶悪いのです。


「……ううっ。わかりました」


 キジはとぼとぼと歩き出しました。

 その背中に、餞別――いや、嫌がらせのために、たくさんのきびだんごが入った重い袋を桃太郎が投げつけてきました。キジの頭に当たりました。呻きながらもそれを口に咥えると、またとぼとぼと歩いて去っていきました。


「じゃあな、キジ。人間に焼き鳥にされないように気をつけろよ」


 猿はゲラゲラと笑いながら言いました。


「お前みたいな役立たずが消えてくれてせいせいするぜ」


 犬は口を大きく開けて言いました。


 キジは元仲間に何も言い返さずに去っていきました。


 ◇


 キジは一羽で当てもない旅をしました。その道中で、様々な種類の鳥に出会いました。鳥は腹を空かせていて、同情したキジがきびだんごをあげると、彼に感謝して『ぜひ仲間に加えてほしい』と言いました。断る理由がなかったので、キジは彼ら鳥たちを仲間に加えて、パーティーを作りました。 


 やがて、きびだんごが尽きるころには、キジパーティーは一大勢力となっていました。とはいえ、特にすることなどはありません。彼らは相変わらず当てのない旅を続けました。


 ◇


 一方、その頃桃太郎パーティーは――。


「くっ……敵が強くなってやがる」

「もうすぐ、鬼ヶ島ですからね」


 猿は言いました。


「鬼相手に勝てるのでしょうか……」


 犬は自信なさげです。


 撹乱・囮役のキジがいなくなってから、桃太郎パーティーは苦戦続きです。今になってようやく、キジの必要性重要性がわかったのです。しかし、呼び戻そうにもキジがどこにいるのかもわかりません。


「まさか、あいつがいなくなるだけでこんなに苦戦するだなんて……」


 桃太郎は深く後悔しました。

 キジは桃太郎パーティーの縁の下の力持ちだったのです。


「お願いだ。帰ってきてくれ……」


 その願いが届いたのか(?)、ある日、桃太郎パーティーとキジはばったり再会しました。たくさんの仲間がいるキジに驚きながらも、桃太郎はこう言いました。


「おい、キジ。俺のパーティーに戻ってこい」


 それに対し、キジはゆっくりと首を振りました。


「いまさら、戻ってこいなんて言われてもね……もう遅いんですよ」


 キジは後ろにいる仲間たちを一瞥しますと、


「今の私にはこんなにもたくさんの仲間がいる。私はパーティーの長として、彼らを見捨てることなんてできない」

「なんだとっ!? この俺が戻ってこいと言っているんだから、早く戻りやがれ!」


 桃太郎が怒鳴った瞬間、鳥たちが殺気を放ちました。


「やれやれ……。桃太郎さん、あなたはどうやら、立場をよくわきまえていないようだな……。行くぞ、バードストライク!」


 ずどどどど、と鳥たちが一斉に桃太郎パーティー三名に向かって勢いよく突進してきました。


「「「うぎゃあああ」」」


 三名はなすすべなく、這う這うの体で退却しました。


 ◇


 桃太郎パーティーは仕方なく三人で鬼ヶ島に突入しました。鬼ヶ島に住む鬼のことごとくを駆逐することが彼らの使命なのです。


「おい、鬼! 今からこの俺が貴様らを駆逐してやる!」

「できるものなら、やってみやがれっ!」


 鬼たちがわんさか襲い掛かってきました。

 桃太郎パーティーは善戦しましたが、結局、鬼たちにボコボコにされてしまいました。


「畜生……どうしてこんなことに……」


 今にして思えば、桃太郎パーティーの基本戦略は、キジが敵を撹乱し、囮となっている間に、他三名で各個撃破していくというスタイルでした。それが、キジがいなくなったことでできなくなり、パーティーとして大幅に弱体化してしまったのです。


「さぁて、俺たちに歯向かったこの愚か者どもをどうしてやろうか」


 鬼たちが残忍な笑みを浮かべながら、三人を取り囲みます。

 傷だらけでまともに抵抗できない彼らは、必死になって命乞いを行います。


「お、お願いだ。助けてくれ……!」

「桃太郎がすべて悪いんです。私は脅されて仕方なく……」

「ワ、ワンワンワンワン!」


 しかし、鬼たちに命乞いなどしても無駄です。

 べろりと舌なめずりをしますと、こう言いました。


「俺は人間がいい」「俺は犬」「猿かな」「あ、俺も人間がいい!」「同じく人間」「人間が一番量があるな」「どれもおいしそうだ」「みんなで分け合おうぜ」


 そんなわけで、桃太郎パーティーは鬼ヶ島から帰ってくることができませんでした。おじいさんとおばあさんは、桃太郎のことなどすっかり忘れていました。


 ◇


 その数日後、今度はキジパーティーが鬼ヶ島に攻め入りました。雑食鬼たちは舌なめずりをしました。


「へっへっへ。全員、焼き鳥にしてやるぜ」

「行くぞ。バードストライク!」


 必殺技のバードストライクが鬼たちに炸裂します。

 彼ら一羽一羽は鬼より弱いのですが、キジの圧倒的統率力と鳥の数の暴力によって、鬼たちを駆逐することに成功しました。


 こうして、世界は平和になりました。

 鬼を駆逐した褒美として、王様から褒美をいただいたキジは、それを独り占めせずに皆に配分し、鬼ヶ島にキジ王国を建立して、仲良く暮らしましたとさ。


 めでたしめでたし。



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