とある港町の帰り道
九十九免。
とある港町の帰り道
夕方、帰りのチャイムが学校中に鳴り響く。
僕は帰りの会が終わった後、教科書やノートをたくさん入れたリュックを背負い、赤い陽が差し込む教室を出た。
「またね」「じゃあね」という声が聞こえる廊下を抜け、下駄箱から白い靴を取る。
喋るのは億劫だ。早く帰ろう。そう思いながら、僕は靴を履く。
大きくたたずむ白い校門を出て、黒いアスファルトの坂道を上る。
日が差し込まないこの場所は少し暗い。僕はこの暗さがなんだか苦手だ。
前にはクラスメイトが4人ほど話しながら歩いている。面倒だ。僕は彼らのそばをすっと通り抜けていく。
坂を上ると、そこには古びた信号機があった。
数分待っていると、右から来た水色の軽自動車が一台、停止線の前に止まる。
前を向くと、信号は青に変わっていた。僕は横断歩道をゆっくりと歩く。
平らな道をゆっくりと歩く。何の変哲もないアスファルトの道。しかし後ろを振り返れば下り坂。重いリュックを持ち運ぶにはかなり酷だ。しかしここはそんな苦労しなくてもいいから、僕にとっては楽な道だ。僕は前に進む。
また坂道が現れた。
坂道、といってもそれはアスファルトで、
しかし一方で、僕の好きな帰り道の風景の一つがここにある。階段を上り切って、ふと後ろを見ると、僕が今まで上ってきた階段と、その先にある街が目に映る。青い海とそこに浮かぶ大きな自衛艦、わずかな平野に密集した建物、造船所の巨大なクレーン。そしてその周りには緑の山々。いつもの港町の風景だけど、なんだか落ち着く。僕はこれを見るために、この階段を上っているといっても過言ではない。
階段を上りきっても、その先にはまた、坂道が続く。港町はとにかく坂ばかりだ。僕にとって坂道とは友達、いや、腐れ縁だろうか。僕にとって海は大好きだが、坂道は別に好きじゃない。ない方がいいくらいだ。だけどこの港町に住む以上、避けては通れない。面倒だ。
憎たらしい坂道を1キロほど登ると、バス停と青のペンキが剥げた椅子が見えてくる。四角のブロック石に、丸い円柱が刺さっており、その上には丸い看板がある。看板にはバス停の名前が書かれているが、その中には「峠」という文字がある。僕は今、この峠を乗り切ったのだ。今日の敵はもういない。ここからはずっと下り道だ。
だんだん草木が少なくなってきて、光が当たるようになった。僕の足取りはすごく軽くなっている。峠を越えた僕にはもうつらいことはない。あとは前に進むだけだ。途中、動物園のそばを通り、下り坂を抜けると、僕の町が見えてきた。
ここから先はずっと下り坂。その中に、僕の好きな風景がもう一つあるのだ。
しばらくの間、草木に覆われ、暗い道を通る。鬱蒼とした道を抜けると、急に日のあたる場所に出るのだが、そこからは海と散らばった島々が見える。
僕がいつも帰ってくる時間帯になると、夕陽は海の地平線にまっすぐ白い光の線を浮かべながら沈んでいく。そして、その太い線の両隣で海を赤く照らす。島々は夕陽の影に入る。
僕はこの光景が何より好きだ。僕の帰り道の自慢。僕の街が誇る、世界一の絶景。いつまでも僕達を見守る、朱色の海。また明日も、この海を見れたらいいな。
ただいま、帰ったよ。
とある港町の帰り道 九十九免。 @mint-san
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