第37話 父と息子
夫ウォードと息子エドワードは仲がいい。本当に、全く、言葉通りに「仲がいい」。別の言い方をすると父と息子には見えない。
犬がじゃれあってるみたい
ウォードも外では生意気に「子育ては大変だ」などと言っているようだが、どう見ても子育てなんかしているようには見えない。おむつくらいは替えてくれるが。
ふとした瞬間のしぐさがそっくりなのもまた考えさせられる。一瞬微笑ましく思い、次の瞬間にはいかんあほが感染ると心配し、また次の瞬間にはひょっとしてこれは親子ではなく兄弟なのではなかろうか?と錯覚してしまう。いやまあそんなはずはないけど。とりあえず頑張れ私の血統。ウォードの血統に負けるな息子よ。
ウォードは寝そべったまま息子を本人談では「あやしている」。とはいっても息子は父に登っているだけで、登りきったらまた降ろされたり持ち上げられたりしてる。息子も負けじと父の耳とか鼻とか口をつまんだりしている。
そんな事をしている内に気がついたら二人とも眠っていたりする。これまたシンクロした寝相で。うーんやっぱりこれ兄弟かも? と思ってしまうアンソニオだった。
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祖父の血が強いのか、エドワードはあまり泣かない子だった。そう言えばなんとなく父さんとも似てるな。ああそうだ、口をへの字にするとよく似ている。
「…ああ、寝ちまってた…」
でかい方、じゃなくて夫が起きた。一応父親らしくエドワードにそおっとタオルケットをかける。それで止めればいいのに息子をじーっと見つめている。
「うーん。かわいい」
真顔でそういう事をいう父親だった。ウォードは息子に赤ちゃん言葉みたいな言い方をしない。そのまま普段通りに話しかけてる。
「腹へった。何か食べるものない?」
はいはい大きな息子よ。
「サンドイッチでいい?」
アンソニオは専業主婦なのでまあこれくらいはやってあげるのである。というか馴れ初めが確かこんな感じだった。あれは二年前くらいか?三年前かな?
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まーたなんかきた
それがアンソニオのウォードに対する第一印象だった。一昨年のエリザベスの稽古騒ぎと同じようにまたも父アルフレッド・ロイヤの指南を受けに来る男がいた。
ただエリザベスと違うのは父は彼とあまり手合わせはしなかった。素振りとか枝に吊るした木片を打たせたりと、わりと地味な修行をさせることが多かった。あんなのわざわざウチに来てやる必要あるのかな?
そう思って父に聞くとあっさりと「ない」と答えるのだ。じゃあなんで来るの?
「……」
父の無言にある程度は予想がついた。要するに押しかけてくるから飽きるまで適当に何かやらせておこうという腹づもりらしい。
それでもさすがに気兼ねしたのか、エリザベスほど頻繁にではないが父はたまに彼に稽古をつける事もあった。剣術はよく分からないが、少なくとも父とエリザベスに感じた緊張は感じなかった。父が圧倒しているように見える。分かんないけど。
「ありがとうございました!」
ウォードがエリザベスより優れてるのは声の大きさと持久力だったかも知れない。彼は稽古が終わると毎回元気よくそう言った。
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