第34話 仲の悪い女たらし同士

マクシミリアン・グレブナーが16歳の時、同期のフランソワ・タッカーフィールドに抱いた淡い恋心は成就することはなかった。彼女は彼女で当時はウォードに淡い気持ちを抱いていたのである。


そして彼女の淡い気持ちも成就することはなかった。元々なんとなくお互い虫が好かなかったマクシミリアンとウォードの関係が表面化したのはこれがきっかけである。


十代の少年同士の仲違いなどけんかひとつで解決しそうなものではあるが残念な事にそうはならなかった。寄ると触るとお互いのいやな部分を確認し合う二人の仲は時と共により深刻化していったのである。そして二人は周りからこう呼ばれる事になる。


仲の悪い女たらし同士


この評価はマクシミリアンにとって非常に不愉快なものであった。マクシミリアンの主観では自分は「ウォードと違って」決して女たらしなどではない。ただ恋愛など付き合ってみなければお互いの事が分からないではないか。付き合った結果としてお互い相性が良くなかっただけである。


超越者の視点でマクシミリアンの内心を説明するのなら、要するに彼はフランソワの幻影を追い続けただけである。


ウォードもウォードで心外だった。自分は「あのひょろひょろ金髪と違って」剣の道に生きる者である。女人など興味もないし付き合ったこともない。何故あんなひょろひょろがかのアルフレッド・ロイヤの血縁者なのか。


ここでまた超越者の視点で補足すると、仮にデート一回を一交際単位と定義すれば、士官学校の四年間での彼らの戦果はマクシミリアン22回、ウォード23回である。


そして現在、かつて仲の悪い女たらし同士と言われた二人の少年は青年となり士官となり、共にロイヤ姓を名乗ってアルフレッド・ロイヤの近侍同士になったのだった。


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「ひぇーっくしょ!」

ウォードは訓練所で大きなくしゃみをした。誰か噂してるのかな?


ウォードはアルフレッド・ロイヤの入婿ではない、のか微妙である。本人も周りもよく分かっていない。事実としてはウォードは元々姓を持たない家系で入籍に伴いせっかくだしとロイヤ姓を名乗る事にしたのだ。


ただウォードとアンソニオの住居はアルフレッド・ロイヤの持つ邸宅であり、恐らくマクシミリアンの存在がなければなんとなくそのまま入婿という形になって跡継ぎになっていた事は間違いないだろう。


「いつも金がなさそうなのに別宅まであるのか」という指摘に対する回答としては、要するに近侍や使用人用の住宅である。これは下賜されたものなのでそうしていいのか微妙であるが今はウォードからしっかり家賃を取っている。大切な現金収入源だがその収入はアルフレッド・ロイヤの妻マリィの懐に入ってしまう。


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家賃については妻マリィと長女アンソニオの間で静かな戦いがある。


「これは近侍用に下賜された住宅なので家賃を取るのは不当である」

アンソニオは母に対して毎回そのような事を言う。


「どのような形でも当家の財産である。貸家から家賃を取るのは当然である」

マリィも負けじと娘にそのような事を言う。


元々才女と誉れの高かったマリィとその血を受け継いだアンソニオはこういう交渉事にはお互い非常に粘り強かった。高貴なる王国騎士の妻とその娘は家賃だけではなく修繕費や維持費なども都度交渉しあっているのであった。

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