第33話 マクシミリアン・グレブナー

「ご立派でございます! 閣下!」

マクシミリアンは目を輝かせてそう称賛した。アルフレッド・ロイヤの制服にはこれでもかと言わんばかりにメダルがぶら下がっていた。ああ!これこそが我が英雄、我が主君、王国騎士アルフレッド・ロイヤ少将閣下の真の姿だ!


「うむ」

アルフレッド・ロイヤは鷹揚に頷く。吾輩はこんなにもメダルを授与していたのか。これ全部売ったらいくらくらいになるんだろう? 最近懸賞当たらんしなあ。


実にどうでもいい事であるが、従士は騎士ではないのでちゃんと手当は出るし、元々ラウラの経営手腕により裕福なマクシミリアンはお金に困ったことはない。一方はその制服全体に飾られたメダルに憧れ、一方はその所持金を羨む二人であった。


執務室を出て外に向かう主従に周りの軍人は恐れ入って敬礼した。どちらかというと副司令官閣下のメダルに対してではなく、自分が着けてる訳でもないのにこれみよがしに胸を反らせた従士殿の姿に恐れ入ったのだが。なおマクシミリアンがうるさいのでこういう時は立ち止まって敬礼を返さないアルフレッド・ロイヤであった。


まあこんな過剰な装飾にも多少はましな事もある。実用性皆無の剣が軽くて助かる。


---


「あら、グレブナーじゃない! 久しぶりね」

マクシミリアンが本営の共用休憩スペースでコーヒーを飲んでいるとそう声をかけられた。驚いてそちらを向くと懐かしい顔があった。


「フランソワ! 久しぶりだね! ああ、でも今はロイヤ姓なんだ」

マクシミリアンはアルフレッド・ロイヤの姉ラウラの息子なので本姓はロイヤではない。士官学校卒業後、従士となった時に登録姓を変更したのだ。


「あらそうだったの? …え、あれ?ってことは?」

フランソワは少し思案し、そして笑い出した。


「確かウォードも今はロイヤ姓だよね!おっかしい!」

フランソワはけらけらと笑い続けた。


「なんだよお…」

ばつが悪そうに言うマクシミリアンであった。青春時代のほろ苦い傷心が痛む事はなかったが、久しぶりにその古傷を意識したのは確かであった。


「…だって、ねえ?」

フランソワはけらけら顔からにやにや顔に変わっただけでそれ以上は言わなかった。言ってほしくもない。ウォードとの関係なんか再認識したくない。


「ああごめん仕事があるの。またね」

そう言ってフランソワは立ち去ってしまった。


ああいうあっさりしたところは全然かわってないな。唐突に現れて唐突に去っていくフランソワの後ろ姿を眩しげに見つめてそう思うマクシミリアンだった。

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