第32話 アルフレッド・ロイヤの栄達
「おめでとう、ロイヤ少将」
アーサー・ブライン司令官は半分は作った笑顔でそう言った。半分は本気の笑顔だ。アルフレッド・ロイヤとダラス・ウルブレヒトの昇進に押し上げられる形で自分も少将になったのでその点では嬉しいし感謝もしている。
ただし屯所の司令官職は変わらずで、さらにアルフレッド・ロイヤ、ダラス・ウルブレヒト両名がそれぞれの屯所の副司令官になった。これによってブラインは事実上実働部隊の指揮権を取り上げられる形になった。屯所の司令官に着任して以来直接指揮などしたことなどなかったが。
「は!」
アルフレッド・ロイヤは敬礼した。
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(…めんどくさい)
(…何も変わらんよ)
(…毎週本営に行くのがめんどくさい)
(…お前出歩くの好きだろ)
高貴なる王国騎士たる両名はその程度の会話なら目配せだけで可能なのであった。
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うーん
ブライン司令官は微妙な気持ちだった。アルフレッド・ロイヤが司令官職をやりたがらないのがここに来てこういう形で裏目に出るとは。普通少将なら軍務省や本営でそれなりの立場を期待していいはずなのに。
ダラス・ウルブレヒトをここの司令官にするのは難しかった。不可能ではないがウルブレヒトにも計算がある。彼が希望しているのは獅子鷲騎士団の議長なり典務長である。陸軍の都合で異動を受け入れれば心証が悪くなると考えていた。
アルフレッド・ロイヤ自身は相変わらず隠居を望んでいるが後継者問題も変わらず進展しなかった。まあするわけないが。孫のエドワードを後継者にするには最速でも20年後と考えるとさすがに他の候補を考えざるを得ない。ああどうしよ。
三者三様のキャリアプランはなかなかうまくいかないのであった。
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「おめでとうございます。殿」
アルフレッド・ロイヤの妻マリィは夕餉に鱒の塩焼きを用意させ祝福した。
「うむ!」
アルフレッド・ロイヤは嬉しそうに頷く。巡回視察で食べ損ねた好物だった。
少将昇進の祝賀会は開かなかった。開けばマクシミリアンとウォードも招待しなくてはならなくなる。またけんかになったら面倒だ。
「そういえばメダルなどもちゃんと用意しなくてはなりませんわね」
共に夕餉を摂りながらマリィは言った。
「うむう」
アルフレッド・ロイヤもやや不服そうにそう頷いた。定期的に本営に赴くならちゃんと制服にメダルをぶら下げなくてはならない。あと将校飾緒や下賜された佩剣も。
佩剣はそれ自体が権威を示すもので中身は別に何でもいいのだが、本営に赴くならば下賜された物でなくては余計な誤解を生みかねない。あの剣とは名ばかりのごてごてと装飾された剣を佩ぐのか。それに宝石付きのメダルもか。そのまま誘拐されそう。
マリィは夫の阿呆な想像を大体分かっていたが特に何も言わなかった。
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