第31話 王国騎士最高会議
「この際防衛白書を刷新するべきです!」
王国騎士最高会議で典務長ダリオ・ヤームは大声でそう発言した。団長代理ウォーレン・ヤームと議長コリン・ロードルは別に反論はしなかった。
「典務長のお考えは承りました。この件は私も尽力したいと考えます」
ウォーレンは目をくわっと見開き、典務長をしっかりと見据えて力強くそう言った。
「宜しくお願いします!」
もちろんである。典務長の考えを咀嚼し、その思いがちゃんと伝わるように、しっかりと時間をかけて、覧の印を捺印することにしよう。衛所の兵員は陸軍の管轄なので騎士団がやることはない。一応確認書類が回ってきただけである。
「では次の議題に移ります」
議長ロードルは淡々と議事を進行した。次の議題は獅子鷲騎士団長の人事である。
「議長はロイヤ、ウルブレヒト両名を推薦したいのでしょうが私は反対です!」
またも典務長ダリオは大声で言った。本件はこれが初めて提出された議題ではない。毎回議題に上がって何も決まらないだけだ。
もし31歳のダリオ・ヤームが実績だけで典務長に選出されたのなら歴史に残る偉人となるであろう。彼の実績や歴史上の評価はともかく、公爵セイルフォン・ヤームの三男という立場について余人がどう考えるかは自由である。
「ロイヤ、ウルブレヒト両名は団長位について消極的です!」
ダリオは大音声でそう言った。ウォーレンはキミねそういうときは「のように伺えます」とかそういうワンクッションを置くものだよ、とは言わなかった。
ダリオが典務長に就任した時はこういうタイプだとは思わなかった。彼はむしろ申し訳なさそうに言ったのだ。
「私は家名で押し上げられただけの若輩者です」
大した武勲もなく30歳で典務長に選出さればどんな人間だってそう思うだろう。巨躯をいじましく縮こませる彼に対し、ウォーレンはつい余計な事を言ってしまった。
「これから実績を築けばいいのだ。期待しているよ、典務長」
そうしてダリオは奮闘した。奮闘し過ぎた。彼は無能ではなかったが強引ではあり、また何事も話を大きくし過ぎた。それは実績をより大きくするために。
そうしたダリオにとって最大のライバルはアルフレッド・ロイヤとダラス・ウルブレヒト両名である。実はダリオは自身が獅子鷲騎士団長を兼務したいのだ。
両騎士団長が王国騎士団典務長を兼務する事はあるが逆はあまりある事ではない。ない訳ではないが実務の最高位のひとつである典務長がただの名誉職である騎士団長を兼務する必要がない。しかし実績と箔付けのためにダリオは騎士団長位を欲していた。というよりどうもダリオは騎士団長という役職を勘違いしているように思えた。
昔はともかく今の騎士団長はただのお飾りである。余計な事はしないほうがいいし、執務室に居なくても構わない。式典などがないのなら執務室に団長のメダルをかけた猫のぬいぐるみを置いていても差し障りはない。そういう実態をどうもダリオは良く分かっていないように思えるのだ。
ウォーレンは内心で溜息をついた。今は違うがむしろ昔のウォーレンのほうがロイヤ、ウルブレヒト両名をライバル視していたのだ。あの両者を差し置いて武勲を立てるのがどれほど大変だったか。
「…」
議長ロードルは無言のままである。最年長の彼は会議で余計な事はあまり言わない。というよりこの件に関しては実はあまり関心がない。
ロードルは別にロイヤ、ウルブレヒトを団長にしたい訳ではない。というよりどうでもいい。自身が団長を務めた経験からそれがどれほど虚しい役職かはよく知っている。もっともその空いた時間で根回して議長職を勝ち得たわけではあるが。
ただ典務長ダリオが団長を兼任するというのはやや抵抗がある。これ以上引っ掻き回されても困るしヤーム家の権勢が増し過ぎるのも好ましくない。ただそれも別に絶対に反対という程ではないが。どうせ年齢的にもそろそろ引退の頃合いだし。
まあとりあえずは両名を少将にするのが落とし所かな。密談をしていた訳ではないがロードルもウォーレンもそう思っていた。名誉職どころか上がり職になってしまったウォーレンもかつてのライバルの去就などどうでもいいのであった。
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