第29話 高貴なるパントマイム再び
娘たちの尊い関係を知らない父親たちは、これまた対照的に下世話な話を繰り広げていた。ただし名誉ある王国騎士たる彼らのその口は重い。従って例によって例のごとくパントマイム的な会話が交錯されるのであった。
(…なあおい、そろそろウチの娘を何とかしてくれんか?)
(…何とか、とは何だ?)
(…例えば退役させるとか。このままだと行き遅れになっちまうよ)
(…そんな事いわれても困るわ。父親なら自分でなんとかせえ)
(…あれは頑ななんだよ。お前の言う事なら聞くだろうから頼むよ)
(…吾輩の言う事なんぞ聞かんよ。従順に見えて納得した事しかせぬ)
(…そこを何とかしてくれ。騎士団長位は譲るからさ)
(…いらんわそんなもの。むしろお前がなってくれ)
(…本職も別になりたくないし)
(…それ交渉になってないよね)
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「ロイヤ閣下とウルブレヒト閣下って仲が良いよな」
円卓会議の入り口で警備を務める兵士が小声で相方にそう言った。
「元々先代騎士団長の近侍同士らしいからな」
話しかけられた兵士も小声でそう返した。
彼らの推測は正しいのだが、実態を知ればまた違った感想を持つかも知れない。
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アルフレッド・ロイヤとダラス・ウルブレヒトが先代騎士団長の近侍同士というのはやや誇張した表現である。正確には当時の獅子鷲騎士団典務長コリン・ロードルの近侍同士がロードルの昇進に引きずられる形で一時的にそうなっただけである。
また、例えばマクシミリアンとウォードの関係を「仲が悪い」と定義し、そうではない関係を「仲が良い」とするのなら、確かに二人は仲が良かった。極少数しかいない王国騎士の同世代同士で嫌いあってる訳でもなければそれなりに交流はあるものだ。
アルフレッド・ロイヤが騎士団長になりたがらないのは勤労意欲に乏しいからだが、ダラス・ウルブレヒトがなりたがらないのは勤労意欲に乏しいからではない。旨味がないからである。騎士団長などと言えば聞こえがいいが要するに名誉職である。
この物語はアルフレッド・ロイヤを主軸に扱われているので王国騎士の活躍やその実態が記されているが、軍全体で見れば王国騎士など天然記念物とか絶滅危惧種も同然である。時代錯誤とすら言われる事もある。王国騎士位を軍籍と分離し名誉階級や名誉称号にすべきという意見もあるが、皮肉な事にアルフレッド・ロイヤやダラス・ウルブレヒトの勇名がその時代の流れに歯止めをかけているのだ。
ちなみにアルフレッド・ロイヤ自身は基本的には軍籍分離論に賛成であるが、細かいところで非常に気になる事がある。軍籍から離れた王国騎士を名誉「階級」にするか名誉「称号」にするか、という点である。
名誉階級ならば要するに現在の地位や権利を保全したまま軍籍から離れるだけだが、名誉称号ならばそうはならないのではないか? 見た事もない領地を没収されて名士として仰がれるだけではないか?
もちろん名誉ある王国騎士たるアルフレッド・ロイヤは、もし仮に軍籍分離が発令されればその後ただの将官として軍に残る気など全くないのであった。
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