第26話 アルフレッド・ロイヤの強襲
「
ウルブレヒト少佐の命令で弓兵は一斉に射撃した。目標は落ち武者集団の拠点と想定される人里である。
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一旦暫定本部に戻り報告した後、翌日再び当地に趣き現地で更に少人数の調査隊を編成してこの人里を見つけた。この情報を持ち帰り村長にこの人里の事を確認する。
「いやあ、そんなところに人里など聞いたことはありません」
確定したわけではないが極めて怪しい。ここは慎重に斥候を潜らすべきであろうか?一人で結論を出すべきではない。指揮官アルフレッド・ロイヤに報告をして判断を仰ごうと向かったところ、当然だが既に屯所に伝令が出た事を知った。
これは速攻で片付けなければ。
「攻撃命令をお願いします」
ウルブレヒト少佐はアルフレッド・ロイヤにそう言った。しかしいつも通りのうむ、という返答ではなかった。
「吾輩が現地で指揮を執る。少佐は弓兵隊を組織しそれを指揮せよ」
アルフレッド・ロイヤはウルブレヒト少佐が速攻を具申する理由も判っていたし、アルフレッド・ロイヤ自身も早く決着をつけたかった。面倒になる前に。
「はっ!」
ウルブレヒト少佐は敬礼して命令を受けた。
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第四方面中央屯所に於いてアルフレッド・ロイヤが現場指揮を執ると言った場合、それは安全な後方からの指揮や督戦という意味ではない。アルフレッド・ロイヤ自身が最前線で剣を振るって戦いつつ指揮を執るという意味である。
御年50歳。普通ならとても最前線で戦う年齢ではないが、この勤労意欲に乏しい怠け者の中間管理職は、しかし確かに武の才能に恵まれ、それを究極と呼ばれる領域にまで高めていた。その剣撃は今なお当代最強の誉れが高い。
「ふん!」
大男が振るう斧を左に捌いてわざと装甲の上から一撃を見舞う。斬り殺すためではない。装甲をへこませ、へこんだ装甲がそのまま武器となり拘束具となる。
「ご、が? ああっがあああ!」
大男は生まれて始めて喰らう攻撃に困惑と激痛の声を上げた。剣撃とへこんだ装甲により肋骨が折れ、そこにいわば金属の拘束具を押し当てられたも同然である。反撃どころか装甲を脱ぐことも出来ない。アルフレッド・ロイヤの離れ業のひとつである。
「お見事です! 殿!」
ウォードは得意の大剣を振るいながらそう称賛の声を上げた。ウォードはウォードでその大剣を振り回して戦果を上げているがアルフレッド・ロイヤからの評価は低い。
──そんな大剣を振り回すなら火かき棒のほうがまだましだ──
射程が長く破壊力もある大剣だがその分扱いは難しい。射程が長いといっても槍には及ばず、破壊力では斧に劣り、取り回しでは長剣以下である。見た目はよく威圧感はあるが武器としてはあまり優れたものではない。
アルフレッド・ロイヤとウォードという高級士官直々の奮戦により兵士たちの士気も大いに鼓舞され、戦闘は終始優位に立ち続けた。もうすぐ幕引きである。
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「お見事でした! 師しょ…閣下!」
興奮したのか徹夜明けのせいか、久しぶりにウルブレヒト少佐が言い淀んだ。
「うむ」
アルフレッド・ロイヤは鷹揚よりもやや苦笑気味にそう頷いた。別に弟子にしたつもりはなかったのだが結果的にそのようになってしまい、また周りからもそう言われるようになったのは何時の頃からだったか。ちなみにウォードも弟子を自称しているが彼がそう呼ばれる事はなかった。
「敵方の戦死者は11名、負傷者は28名。我が方の戦死者は1名、負傷者9名です」
マクシミリアンからそう報告があった。軍人である以上は仕方のない事だが部下の死は痛ましかった。それと我が方の負傷者がやや多い。少し訓練を強化するべきか。
「うむ」
とりあえずいつものようにアルフレッド・ロイヤは鷹揚に頷く。このいつもの相槌が周囲に安心を齎すことを良く知っていた。これこそ我が奥義である。
落ち武者たちを拘束して下山すると遠くに獅子鷲騎士団の征旗を翳す一団が見えた。そしてウルブレヒト家の旗も。
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「ベスは無事か!? エリザベス・ウルブレヒト少佐だ! どこにいるんだ!?」
王国騎士ダラス・ウルブレヒトは愛娘のために僅か一日で部隊を率いてイレシアまで飛んできたのであった。
「…」
ウルブレヒト少佐は無言のまま顔に手を当てうつむいた。
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