第22話 アルフレッド・ロイヤの巡視
「もう!毎回毎回!何度間違えれば分かるの!?」
主計室からは久々にシュレイズ大尉の怒号が聞こえてきた。通りかかった者は皆ああこれこそが我が屯所の日常だ、と安心するのであった。
ショードル・ロイヤという災厄が去った後も被害の爪痕は大きかったが、それはシュレイズ大尉という姐御肌が復職したことにより徐々に復興されていった。もっとも本人からすれば踏んだり蹴ったりであろうが。
「元気でよかったです!シュレイズ大尉!」
またも申請ミスで怒られているウォード大尉は場違いな激励をしてさらに彼女を怒らせるのであった。
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アルフレッド・ロイヤも忙しい。マクシミリアンに代休を取らせなくてはいけないのでもう来週に迫った巡回視察の編成指示はアルフレッド・ロイヤ自身がやらなくてはならなかった。
ショードルを始めとして伯父一家がその後どうなったかは聞いていない。聞きたくもない。耳が早い妻や娘は何か知っているらしいが敢えて聞かなかった。
「第8歩兵大隊、編成準備完了しました」
ウルブレヒト少佐が敬礼しつつそう報告した。
「うむ」
アルフレッド・ロイヤは鷹揚に頷く。巡回視察というのはその字面から連想するより面倒な作戦である。ただ順繰り各衛所を巡るだけではなく、装備や連絡網点検、衛所近辺の敵性勢力の確認、場合によっては実戦出動もあり得るのだ。
とはいえ役得がないわけではない。行けば地方の領主や名士が歓待してくれて山海の珍味や地酒なども供される。アルフレッド・ロイヤが屯所の司令官にならない最大の理由がこれなのだ。
-司令官などになっても何の旨味もない-
権力よりも金銭や食べ物などの直接的な利益を好むアルフレッド・ロイヤにとって司令官職などただ面倒なだけである。週に三回も本営に赴いて会議だの調整だの政治だのとてもやっていられない。手当も出ないのに。
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「…うむ」
既に提出されている巡回視察計画案に目を通して司令官アーサー・ブラインはそう独りごちた。別に何の問題もない。ショードル・ロイヤの作成した草案はそれはそれはひどいものだったそうだがそれに目を通す機会はなかった。
-まあかの王国騎士殿がいれば-
そう思ってブライン司令官は手を合わせた。ありがたいありがたい。アルフレッド・ロイヤとは逆に彼は実戦指揮など御免だった。アルフレッド・ロイヤはこの巡回視察を半ば物見遊山のように考えているが、実はこれは非常に危険な任務なのである。
-もうこの屯所に赴任して3年か-
ブライン司令官はこの屯所に赴任する時の事を忘れたことはなかった。
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