第18話 呉越同舟
「不正は糺すべきだよ」
従兄弟のグレンはアルフレッド・ロイヤにそう言った。さすがのアルフレッド・ロイヤも、その言葉がグレンの本音の中で最も見栄えがいい部分をこれでもかと磨き上げたものだということは判っている。
グレンにとって甥のショードルは男爵後継候補の最大のライバルである。なにせ長兄の長男なのだ。普通に考えればグレンに男爵位の目はない。
しかし長兄ウォルターは若い頃に継承権を放棄しているのでその長男だからといって絶対的に優位なわけではない。かといってグレンが優勢かというとそれもまた微妙で、つまり甥の失点は最大限に活用するべきだった。
そのためにはまず件の主計士官を釈放することが第一歩で、その点ではアルフレッド・ロイヤとも利害(?)は一致しているのであった。
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「…まあ、黙っていていいものではないからな…」
グレンの兄ウォルターは事情が異なる。財務省次官レースに惜しくも敗れた彼は官僚としての先はない。あとは準男爵として田舎の領主にでもなるしかないのだが、そうなってくると長年意識の外にあった息子への教育を改める気になっていた。
-悪事は悪事として認めそれを償わなくてならない-
かつて出世のためにモラル上の悪事の限りを尽くしたウォルターは、出世レースに敗れた事で初めてその境地に辿り着いたのであった。それを成長と呼ぶべきなのか諦めの境地と呼ぶべきかは判断が難しかったが。
そのため現在の状況に全く疑問を抱かない息子を糺すためにも、まずその主計士官の放免を望んでいた。
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「わしゃ来年には90じゃぞ。なんとかせい」
王国貴族の中でも現役最長齢のウェルド・ロイヤ男爵は唾を飛ばしながらアルフレッド・ロイヤにそう詰め寄った。
今までは割と恬然と構えていた伯父ではあるが先日とある子爵のパーティに出席して考えを改めた。さすがにそろそろ息子か孫が当主だろうと思っていたらなんと曾孫が子爵位を継承していたのだ。
「60も下の者に敬語なんぞ使えぬわ。なんとかせいアルフレッド」
ほっとけば100までも生きそうな伯父ははまず軍籍から孫をひきはがすためにその主計士官を放免させよと宣わったのであった。
ちなみに伯父は息子二人に男爵位を継承させる気は全くなかった。長男ウォルターは継承そのものが難しく、次男グレンは女癖が悪すぎて4回の離婚を経て未だにあれやこれやと問題が噴出しているためであった。
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アルフレッド・ロイヤは溜息をついた。仲の悪い伯父一家は一同に会した訳ではなくそれぞれ別々のタイミングで会ってそれぞれに勝手に言ってきただけである。
そして結局、目的は違えどエリーゼの釈放という一点だけは一致しており、アルフレッド・ロイヤは自身の正義と隠居料のためにも尽力しなくてはならなかった。
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