第17話 アルフレッド・ロイヤの都合
「…まあ、粘るしかありませんわね」
アルフレッド・ロイヤの妻マリィは微妙な顔でそう言った。
「うむ」
アルフレッド・ロイヤは鷹揚に頷く。それ以上夫婦の間で会話は続かなかった。
-妙な話になったわね-
マリィは心の中で溜息をつくのであった。
---
当初アルフレッド・ロイヤは単純な正義感からエリーゼ・シュレイズとの面会と釈放を望んでいた。さほど面識があるわけではないが同じ屯所の同僚同士である。そしてマリィもその考えを強く支持した。
「ご立派でございます、殿」
マリィは夫の考えを聞いて嬉しくなった。勇名に反して実は不器用で怠け者の夫は、しかしこういう素朴なところは決して変わらなかった。そして嬉しさの照れ隠しのためについ余計な一言を言ってしまったのである。
「まあ、退職金も少し上がるかも知れませんしね」
鼻歌でも歌いそうな気持ちを抑えてそう言ってしまった。
「む?」
珍しくアルフレッド・ロイヤが妻の言葉を追った。
「あら? ご存知ありません?」
正確には退職金ではなく隠居料だが、王国騎士は軍人としての退役金とは別に隠居料というものが支払われる。これは「典範に基づく行動」が査定対象であるので軍人としての規範とはやや異なるのだ。
アルフレッド・ロイヤはお金がない。貧乏というわけではないが単純に現金がない。それは彼個人の事情ではなく王国騎士は皆そうなのである。
本来王国騎士の収入源は領地経営である。与えられた領地や農園を運営してそこから収入を得ることになっているが、大昔の騎士でもあるまいに軍役に就いている者がそのような事を出来るわけがない。
なので現在、ほぼ全ての王国騎士は国営農場や漁業場の一部を形式的に自領とし、それを貸し与えているという体裁でそこから収入を得ている。さらにそこから直接生産物を得るのではなく農水省が買い上げるという形式になっている。
さらにさらに農水省から現金が支給されるわけではなく、手形の引き落とし先が農水省になっているだけであり、つまり領地からは一切現金収入がないのである。
アルフレッド・ロイヤは軍人としての賃金もあるがその額は安い。軍人は階級に関わらず全て同じ基本給となっており役職手当などで増額するのだが、二重収入による格差を緩和するために王国騎士にはこの手当が一切支給されないのだ。
そのためアルフレッド・ロイヤだけではなく名誉ある王国騎士は皆現金に弱い。そしてさらに、エリーゼ・シュレイズとの面会と釈放に関しては非常に奇妙な事情により多くの関係者がそれを望んでいるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます