第16話 アルフレッド・ロイヤの面会
アルフレッド・ロイヤは姿勢正しく無言でじっと待ち続けていた。無言で待ち続けるのは彼の特技、というより威厳を保つための日常的な仕草だったので苦労はない。しかしそれを見る者には大きな畏敬の念と少しの誤解を与えた。
-気持ちが通じればいいのだが-
弁護士ルイ・ウィンストンはそう思った。
3ヶ月前に獅子鷲騎士団で起きた「横領未遂容疑」は何とも奇妙な話であった。大体にして「未遂容疑」とは一体何なのか。弁護士であるルイですら説明ができない。
実際に何が起こったのかは明白である。ショードル・ロイヤという少尉が自制心のなさから横領をしたのを被害者側である騎士団が隠蔽したのである。そこには前後関係も共犯もない。そんな事はルイだけではなくこの警邏署だって判っている。
隠蔽の理由も判りすぎるくらい判っている。そのロイヤ少尉というのが男爵家の後継者であり、さらに指揮官とも血縁関係があったので内偵が忖度しただけである。
本来は被害者側が隠蔽してしまえばそれで終わりなのだがあまりにも間が悪かった。事件が起こった翌日に軍務省の抜き打ち検査が入ったのだ。横領した金は男爵家から補填されたが、あまりにも関わる人間が多くなりすぎたため結局誰かが泥をかぶらないと収まりがつかなくなってしまった。
そしてエリーゼ・シュレイズという主計士官が事情聴取の名目で実質収監されてしまったのだ。もちろんもう訊く事など何もない。しかし彼女をすぐに釈放する事もできなかった。
ルイもこの状況には困り果てている。彼はエリーゼ個人の弁護人ではなく獅子鷲騎士団の契約弁護士である。つまりエリーゼ側でもあり騎士団側でもあり、さらに言えば刑事告発されていないので誰の何を弁護すればいいのかが曖昧なのだ。
こういう状況なので誰もが事態の直視を避ける中、唯一人アルフレッド・ロイヤ氏だけが彼女の面会を申し込んできた。
-立派な方だが-
アルフレッド・ロイヤ氏が面会を申し込んだのはこれが初めてではない。しかしその面会申し込みに当のエリーゼが応じる事はこれまでなかった。
-当然だ-
エリーゼからすれば直接関係ない上役でありロイヤ一族ともなれば警戒するに決まっている。しかし今日で6回目の面会申し込みである。過去の面会謝絶時も再訪を告げるのみで決して居丈高な事は言っていない。ルイはこの高潔な騎士の誠意が届くのを祈ることしかできなかった。
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アルフレッド・ロイヤは静かに面会を待ち望んでいた。高貴なる騎士たる彼は無論正義感から彼女にかかった嫌疑を晴らしたいと切に願っている。
そして正義感ではない理由からも。
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