第14話 マクシミリアンの忖度

「閣下、お疲れのご様子ですが、大丈夫ですか」

マクシミリアンは半歩下がった馬上からアルフレッド・ロイヤの体調を慮った。


「うむ」

相変わらずそれしか知らぬ、とばかりにアルフレッド・ロイヤは答えた。マクシミリアンは小さくため息をついた。


「御杞憂はお察し致します」

親族からの評価は今ひとつのマクシミリアンであったが、本来は優しい青年だった。アルフレッド・ロイヤが叔父であるとか、憧れの勇者であるとかは関係なく、気落ちしているものが近くにいれば気を揉んでしまうのだ。


ショードルのことだろうな、とは分かっていた。マクシミリアンにとっても当然ショードルは親族なのだが、実はほとんど面識がない。同じ部隊に所属する将校同士とはいえ、マクシミリアンは士官学校を卒業した正当の将校であるのに対し、ショードルは言わば貴族社会の研修生であり、その地位はあくまで家名に対して付与されたものである。本来なら馬鹿にすらしないお客様なのである。


そんなお客様が入営半年で横領事件を起こしたのでしょうがなく身柄を預かる羽目になったのだ。親族である以前に指揮官として気が気ではないはずである。


自分がしっかりせねば。マクシミリアンは心の中でそう思った。刀槍術では主君アルフレッド・ロイヤ自身にも、悔しいがウォードにも劣る自分ではあるが、その分我が身を挺する覚悟は誰にも負けないつもりだった。



アルフレッド・ロイヤは甥の気遣いを感じていた。そしてその責任感の強さもよく分かっていた。姉や娘からの評価は今ひとつであるが、指揮官たるものまず真面目でよく目配せができなくては務まらない。自分がそうではないのでよく分かるのである。


-しかし、まだまだだ-

真面目なのはいいのだが主観的に過ぎる。無意識に周りも皆自分のように真面目であるべきだ、と思い込んでいるところがある。


例えば、今は勉強も兼ねてショードルに事務方業務をやらせざるを得ないので、マクシミリアンの業務が監督的な役割にシフトしてしまい、今までは事務方業務を理由に残業させて帰りの一杯を愉しむことができたのだが、それもできなくなった主君を慮るとかそういう気遣いが足りないのだ。


かろうじて軍服も王国騎士の外套も外しているが、誰がどうみても只者ではないことがバレてしまうアルフレッド・ロイヤは、せめて帰宅中に治安維持出動などないことを祈りつつ、なるべく帯剣が見えないように外套で隠しつつ帰路につくのであった。

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