第12話 王国騎士ダラス・ウルブレヒト
「難しい」
王国騎士ダラス・ウルブレヒトはそう即答した。
どこの屯所にも必ず設置されている小さな円卓会議室である。ここは立場に関係なく王国騎士の勲位をもつ者しか使用することができない名誉ある密談室だった。
「うむう」
アルフレッド・ロイヤの語尾がやや濁って伸びたのは、諦めなのか、理由を促したのか、あるいは再考を促すものなのか、自分でもよく分からなかった。
アルフレッド・ロイヤは無口な男であるが、それは必ずしも生来の気質からくるものだけではない。王国騎士またはその地位を獲得する可能性のある者は余計な口を利かないように教育されているのだ。つまりダラス・ウルブレヒトもあまり余計なことは言わない。従ってこの高貴なる密談は静かに時が過ぎていった。
しかし無口者は無口者同士、その視線や僅かな仕草で意思疎通ができるもので、静かな会議は静かなパントマイム場として会話が交錯されていた。
(…頼むよもう、前にちょっと金貸しただろ?)
(いやいやちゃんと返しただろ?こっちはこっちで色々あるんだよ)
(従士の不倫疑惑だろ?知ってるよ。だから丁度いいじゃないか)
(だからといって本当に横領をやった奴なんか引き取れないよ)
会議室の前に直立する兵士2人は当然その様子を伺い知る事はできず、その静かな会議の進行に事の重大さを妄想して緊張で汗をかくのであった。
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