第10話 アルフレッド・ロイヤの苦悩

「まあしばらく様子を見るしかありませんね」

アルフレッド・ロイヤの妻マリィは諭すようにそう言った。


「うむう」

いつもとやや違う語尾の淀みは、承服しかねるといったところか。


「大体にして殿、エドワードをすぐに後継者なんて無理でございますよ」

王国騎士たるアルフレッド・ロイヤはいわば準貴族であり、妻は夫を「殿」と呼ぶ。


娘のアンソニオ同様マリィは夫の事をよく知っていた。無口で謹直で真面目であることは間違いない。しかし勤勉ではなく勤労意欲も乏しく何より争いに弱かった。人伝でグレッドフォッグ戦線の武功を聞いたとき、ああ夫ではない、夫は戦死したのだと目の前が真っ暗になったものだった。


ちらりと夫を見る。懐かしいおかしさが蘇ってマリィは微笑みを浮かべる。上級学校で鋼鉄の美女と言われていた自分に、言葉少なく震えて汗をかきながら交際を申し込んできた貴族の子弟はおかしくてしょうがなかった。


「それにしても一日で3カ所も相談にいくなんて」

刀槍術には優れているものの、特に人間関係の争いに弱い夫は、娘婿と甥の争いを見るのがイヤでイヤでしょうがないのであった。

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