第9話 アルフレッド・ロイヤの姉

「あんたもあんたなりに苦労が耐えないわねえ」

アルフレッド・ロイヤの姉ラウラのオフィスである。


「うむ」

アルフレッド・ロイヤはそれしか知らぬとばかりにいつもと同じ相槌を打った。


「で?マクシミリアンはまだ従士なんて続けるつもりなの?」

ラウラが息子マクシミリアンを弟アルフレッドに託したのは妥協案であった。戦争未亡人の彼女はむしろ息子の希望に大反対をしていたのだ。しかし夫の戦死は母と息子に真逆の価値観を形成した。


アルフレッド・ロイヤの無言は肯定の意味であり、続く2人の無言はこの話の流れの悪さに発する言葉がなかったからである。


マクシミリアンをアルフレッド・ロイヤの従士にしようという話は3人の間であっさりと決まった。息子にとってはまさに念願の話であり、母としては息子の死亡率を少しでも減らしたかったし、アルフレッド・ロイヤは姉の目を盗んでとっとと佩剣を渡してしまいたかったのだ。


そこに娘婿ウォードが加わり話は複雑化する。ウォードを後継者にしてしまえば甥マクシミリアンを姉に返し、姉弟はめでたくそれぞれ引退となるのだが、マクシミリアンにしてみれば不俱戴天のウォードに指揮官の座を明け渡した挙句、軍籍を退いて零細貿易商になるなど絶対に許容できる話ではなかったのであった。




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