第8話 アルフレッド・ロイヤの伯父

「其の方も苦労が耐えぬな」

ウェルド・ロイヤ男爵の寝室である。同情とも苦笑とも言えない態度は、伯父もまたアルフレッド・ロイヤと同じ苦労を持っていたからであった。89歳の男爵もまた後継者問題で孫のショードルに期待を寄せていたのであった。


「孫がコケると痛いぞ、アルフレッド」

まさか件の横領容疑者が男爵継承候補者だとは知らなかった。


伯父の長男でありショードルの父であるウォルターはまだ存命中だが、若い頃は父ウェルドと仲が悪く、相続権を一切放棄して官僚の道に進んだ。その後経済官僚として出世した彼はなんと準男爵位を継承してしまったのである。その頃には父と和解していたのだが、相続放棄と自身の爵位で逆に男爵位継承が難しくなった。


次男のグレンは兄と逆に、若い頃は父に服従していたのだが、そのうち父の長期政権に嫌気が指して険悪化してしまった。今なお男爵位を欲してはいるが、もし相続したらウェルドへの冷遇が懸念された。


「しかし我が一族はうまく行かぬのう」

ロイヤ一族には奇妙なジンクスがあった。例えばウォルターやグレン、甥マクシミリアンのように将来を期待されていた人間に何かしら問題が表面化し、結果としてウェルドやアルフレッド・ロイヤのように微妙扱いの二番手三番手がしょうがなく後継者となり結果として名士として扱われるのだった。


その代わりに、例えばアルフレッド・ロイヤの姉ラウラや長女アンソニオのように、女性の血族には才能と良識を兼備するものが多く、結果一族の男どもは嫁や姪や娘に頭が上がらないのであった。

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