第4話 アルフレッド・ロイヤの伝説

「声が小さい!」

軍曹は声を荒げた。新兵訓練の日常ではあるが、いつもより力が入るのはかの王国騎士が閲兵しているからだった。


グレッドフォッグ戦線の勇士、アルフレッド・ロイヤといえば生きる伝説である。王国騎士などただの貴族司令官だという風潮を覆し、単騎で敵陣を突破して大将首を挙げた正真正銘の武人だ。尊敬する騎士の前でみっともない姿は見せられん!


「軍曹も随分と力んでいますね、まあ分かりますが」

くすりと若い従士が笑った。


「うむ」

アルフレッド・ロイヤは謹直な目でその訓練を見ていた。


「軍曹はグレッドフォッグの勇士の大ファンなんですよ」

若い従士は尊敬と、僅かな優越感を込めてそう言った。自分はその勇士の御側にお仕えしているのだ、という驕りが感じられた。


アルフレッド・ロイヤは25年前のあの戦のことを思い出していた。隊長から撤退命令が、副隊長から突撃命令が出て皆が困惑したとき、いち早くどっちにも取れる方向に単騎駆けしたあの戦いを。伝説の実態は、まあ嘘ではなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る