第15話 夜の海
辺りが暗くなってきた。何時だろうか?スマホも何もかも宿に置いてきた。
手ぶらだ、マズイ。どうしよう。
傷は思ったより深く、しばらく抑えてやっと出血が止まった。
今、動くと傷口が開く、正に八方ふさがりだ。
太陽が消えた浜辺は、昼間の様子とは異なり別の表情を見せていた。
地平線が広がる海は孤独で、このままだと私の全てが孤独に支配されてしまうのではないかと怖くなった。
小さく、小さく、膝を抱え込み丸くなった。身を守るために。
「森崎さ~ん!」誰がか呼ぶ声だ。空耳か?
「森崎さ~ん!」やっぱり私を呼んでいる。
「ここです!助けて下さい。」私は大きな声で叫んだ。
走ってきてくれたのは、宿のオーナーだった。
私の足を見たオーナーは瞬時に事態を理解し、スマホで誰かに電話をした。
「もうすぐ車が来るので、島の診療所にいきましょう。」
「ありがとうございます。本当に助かりました。」
「さぁ、取り敢えず上の道まで、俺の背中に乗って下さい。
車はここまで入れないので。」
「大丈夫です。歩きます。」
「その足では、無理です。背負わせて下さい。」彼は頑として譲らなかった。
私は渋々「ありがとうございます。すみません、重いですよ。」そう言い私は彼の背中にのった。
「大丈夫です。重くなんかありませんよ。」
オーナーの優しい声が背中から響き、汗の匂いと海の潮風の匂いとが鼻を掠めた。
決して不快ではなく、逆に心地良かった。
人の背中ってこんなに心地良いんだと、驚いた。
オーナーの名前はモトキと言うようだ。
車を出してくれたのは友人のようで、オーナーの事をモトキと呼んでいた。
島の人は皆方言なのに、オーナーはなまりが無かった。なのに、島に溶け込んでるのが、不思議だった。
診療所に着いて、看て貰ったが足の傷はやはり深く5針縫った。
初老のドクターに「明日も消毒に来るように」と言われた。
これは当分、家には帰れない事を悟った。
逃げ旅 panda de pon @pandadepon
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