第14話 殻

 南の離島へ上陸した。昼間は、まだ汗ばむ陽気だ。

季節が逆戻りしたようで、少し混乱した。


宿へ向かった。島唯一の宿だった。

古民家を改装しているのだろうか、テレビでよく見る沖縄古民家に近くて嬉しくなった。

「こんにちは。電話した森崎です。」

「いらっしゃい。お待ちしてましたよ。」

笑顔の眩しい男性が迎えてくれた。

「疲れたでしょう。どうぞ。」

案内された部屋は、綺麗に改装されていたが何処か懐かしさが漂う作りとなっていた。


「夕食は食堂になります。17時半ですが、よろしいでしょうか?」

「はい、お願いします。」

「夕食まで、ビーチへ散歩でも行かれますか?」

「そうですね、行ってみます。」

「じゃあ、娘に案内させますね。」私が断る間もなく

「おーい萌依めい、お客さんをビーチまで案内してあげて。」

「は~い、パパ。」奥から小学校低学年位だろうか、かわいい女の子が出てきた。

「こんにちは。」そう言って笑った顔は、お父さん同様に人を惹き付ける笑顔だった。

「こんにちは、よろしくね。」思わず、心からの笑顔で答えていた。


ビーチまでの道のりおしゃべりしながら歩いた。

「萌依ちゃんって言うの?何年生?」

「2年生。」

「萌依ちゃん、おうちのお手伝いして良い子だね。パパは大助かりだね。」

「うちはパパと萌依だけだから、萌依もお手伝いしないとパパ大変でしょ。」

「そっか、萌依ちゃんは凄い!」私は思わず頭を撫でた。

萌依ちゃんは嬉しそうな顔で微笑んだ。


楽しくおしゃべりしていると、あっという間にビーチについた。

「おばちゃん一人で帰れる?」

「うん、大丈夫だよ。」

「じゃあね~」

手を振って帰って行った。

思わず、和真君を思い出した。無事自宅に帰れただろうか?

今朝の事なのに・・・もう、随分前の事みたい。


浜辺を歩くのに靴は邪魔だった。

靴を脱ぎ捨て、裸足で歩いていた。波が足に当たると、冷たくて気持ちよかった。

辺りを見ると人影がなかった。

何故か走ったらもっと清々しくなるかもと、年甲斐もなく全力で走った。


思った通り、がちがちに固まった躰から殻がはがれ落ちるように一歩踏み出す度に軽くなった。

その時、急に「痛!」

足の裏を見ると貝殻を踏んだのだろうか、血まみれだ。

一気に凹んだ。折角の爽快感が台無しだ。血まみれの足で途方に暮れ浜辺に座った。日が暮れていく海を見ながら、自分の元いた場所を見失い始めていた。



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