第12話 喜びと嫉妬
宿に戻った私は、日に焼けて真っ赤な頬の和真君を見つけた。
風呂上がりに、コーヒー牛乳を飲みながら扇風機の前を陣取っていた。
「あっ立夏さん、お帰り~。」
「ただいま。どうだった?久しぶりの畑仕事は?」
「やっぱ、畑は最高っす。太陽の下での畑仕事は気持ち良かった!
じいちゃんの頃に比べたら、檸檬の質は若干落ちていたけど、じいちゃんの育てた樹はまだまだ秘めた力を蓄えている感じで。絶対俺の手で、じいちゃんの檸檬を復活させます。」
和真君は、はっきりと意志を持った瞳で。
「と言うことで、俺、明日帰ります。両親と話合って必ず、この島へ戻ってきます。」
私は彼が自分の将来を見つけて事に、安堵し、喜びを感じた。
と同時に嫉妬の影がちらつき、自分に嫌悪感を持った。
「君の未来は開けた!ガンバレ!」嫉妬を打ち消すように精一杯の笑顔を向けた。
夕食後、二人で海辺を歩いた。
浜辺は人影もなく、波の音だけが聞こえていた。
波の寄せては返す波の音は、規則正しくて心地良かった。
静寂を打ち破る様に和真君が口を開いた。
「立夏さんのおかげで、俺は自分の大切な物を取り戻す事ができました。
本当に感謝しています。」
「何よ改まって。恥ずかしくなっちゃうじゃん。」
「だって、立夏さんが逃げ旅の同行を許可してくれたから、今の俺があるじゃん。」
「まぁ、私も息子への接し方のヒントを君から貰ったから、気にしなくて良いわ。」
「そう言えば、立夏さんの最初の印象は、変わったオバサンだったなぁ。列車の中で超浮いててさ。それが、一緒に旅するうちに、立夏さんの優しさや、悲しみに触れ。色々な立夏さんに逢えた。」
「オバサン褒めたって何も出ないわよ。」
和真君は私の正面に立って、
「立夏さんは、オバサンなんかじゃない。
とても魅力的な女性だ。俺は正直、あなたの事を異性として好きだ。
でも、今の俺はあなたに釣り合わないからさ。
いつか、釣り合う人間になれたら、逢いにいくよ。」
和真君はイタズラに微笑んだ。
「その時にちゃんと告白する。」
「駄目よ。私には愛する旦那がいるから。」
「その時には、旦那よりずっといい男になっるから、安心して。」
「自信家ね、悪くないわ。
でも、残念、その頃にはおばあちゃんになっちゃてるわ。だから、その熱意は同世代の娘に向けてね。」
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