第11話 自分と向き合う
お墓参りの後、和真君は畑仕事を手伝いたいと言った。私は一人島巡りをする事にした。
「立夏さん一人で観光させて、ごめん。」
「大丈夫だって、元々は一人旅だったんだし。自分の思うようにすれば良いよ。私に気兼ねはいらないわ。」
そして私は文庫本を片手にバスに乗った。何処行こうか決めあぐねて、何となくバスに揺られながら読書をしていた。ふと顔を上げると、図書館の案内標識が目に入ってきた。そうだ、久ぶりに図書館へ行こう。
着いたのは、島の小さい図書館だった。
子供のために畳の読書スペースあったり、図書館の前には緑地帯を備えた公園があった。アットホームな暖かみのある図書館だった。
私はここで、読書をして一日過ごす事に決めた。
時間帯のせいか、未就園児の親子連れを何組か見た。
お母さんは小さい子を膝に乗せ、絵本を小さい声で読み聞かせていた。
畳スペースや外のベンチなど、色々の場所で、色々な表情をした子供達。
その様子をみていたら、私は昔、悠大を連れて図書館へ行ったり、図書館主催の紙芝居イベントへ行っていた頃のことを思い出した。
あの頃の私は、まだ彼が自分の一部だと思っていた。だって少し前まで私のお腹の中にいて、正に一心同体だったから。
実際、どこへ行くのも一緒だった。仕事が忙しかった主人を頼る事ができず、買い物から、それかこそ美容室まで、どこでも連れて行った。
小さい彼は生きてゆく為に母の愛情を必要とし、私は私が生きてゆく為に私の愛を全身で必要としてくれる彼を必要としていた。
あの頃はその関係に終わりがあるなんて、思いもしなかった。
いや、終わりが見えていなかったのかもしれない。
私はその関係が終了し、次の関係性へと変化したことを理解している。
しかし、自覚が足りなかったのだろうか。いつか家かも巣立ってゆく息子を思うと、寂しさで胸が押しつぶさそうになる。
私自身が、彼から子離れする事が、彼自身が導き出した答えを受け入れる事が出来る唯一の手段なのかもしれない。私は自分の寂しさと向き合う事を決めた。
そんな事を考えながら、一日を図書館で過ごした。
こんなに自分自身と向き合えたのは、何年ぶりだろうか。
私は一歩を踏み出せた気がしていた。
気が付くと閉館時間が近づいていた。
スマホを見ると和真君からのメッセージ、
『今、宿です。畑仕事無事終了っす。取り敢えず風呂へ行ってきます!』
私は慌てて身支度し、またバスに乗車し宿へ戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます