第7話 目的地
お風呂から上げると、和真君が部屋で待っていた。
「夕飯、旨そうっすよ。立夏さん。」
どうやら彼は運びこまれて来るお膳を見ていたらしい。
机の上には、綺麗に配膳されていた。仲居さんに心付けを渡しながら、
「すみません。生ビールお願いします。あと彼にも何か冷たい飲み物を。」
「じゃぁ、俺コーラーでお願いします。」
飲み物を待って乾杯した。「逃げ旅に!」
お風呂上がり、虫の声を聞きながらの飲むビールは最高だった。
和真君の顔も同じで、解き放たれた幸福感を噛みしめていた。
夕飯は新鮮な海の幸を中心としており、高校生の和真君の口に合うか心配だった。
しかし、彼を見ると
「生蛸の刺身って珍しですね。久しぶりに食べたなぁ。子供の頃は、ばあちゃん家でよく食べたさせて貰って。どれも、マジ旨い!」本当に美味しいに食べている。
「へえ、おばあちゃんって、何処に住んでるの?」
「俺が子供の頃は、瀬戸内海の小さな島に住んでました。
じいちゃんが亡くなってから、今は島を出て叔父さん達と暮らしてます。
だから島にはもう何年も行ってないっす。」
「どんな島だったの?」
「島の傾斜には檸檬畑が広がってました。畑へ行くと檸檬の爽やかな匂い広がっていいて、俺はその香りが大好きだった。
知ってます?檸檬畑に漂う香りってその年の檸檬のデキで異なるんです。
今年は、特に良い香りだなぁって思うとその年は檸檬の質が良かった。」
「へえ、檸檬の香りに違いがあるんだ。」
「そうなんっす。ばあちゃん家へ行くと必ず毎日畑へ行って、じいちゃんを手伝ってました。だからいつの間にか分かるようになってて。」
彼はとても楽しそうに島の事は話してくれた。
「あと、小さい漁港もあって、昼前になるとばあちゃんに連れて行ってもらって、その日水揚げされた魚を買って夕飯に食べさせもらいました。
この魚が本当に新鮮で、マジで旨いっす。
島から帰るとしばらくの間は、家で出される魚料理が一切食べられなかった。
何も無い島だって、俺の母さんは言ってたど俺には宝の島に見えていたなぁ。」
彼の表情から、その島と島での思い出を大切にしている事が伝わってきた。
私は、そんな彼の思い出の島を見てみたくなった。
「もう何年も行ってないけど、島にはじいちゃんのお墓もあります。」
「行ってみる?その島へ。」
「えっ!」
「どうせ、目的地は無いんだから。美味しい魚食べに行こうよ。」
「良いんですか?迷惑じゃ無ければ行きたいっす!」
「じゃぁ、明日はその島めざして出発ね。」
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