第8話 島へ向かって

 翌朝、朝食後私達は旅館を後にし、彼の古里である島へ出発することに。

ここにきて、島までの交通手段で意見の相違が生まれ。

因みに旅費は全て私持ちである。まぁ同行を許可した以上、保護者なのだから当然なのだが。

そこで、レンタカーで島へ行きたいと言う和真君の意見は、あっけなく却下された。

「和真君、どうせなら、とことん時間を掛けて旅をしようよ。時間の無駄遣い良いじゃん。」

「でもレンタカーだと、直ぐ橋渡れちゃいますよ。」

「和真君、レンタカーって誰が運転すんのよ。私でしょ、ゆっくり読書できないじゃん!読書の旅よ。ノルマ1日1冊。」

「マジっすか。まぁ、無理言って同行させて貰ってますしね。」

結果スポンサーである私の意向で島へは、バスとフェリーで行くこととなった。


 私達は、昨日と同じようにひたすら読書しながら移動した。

私は何年分もの活字ロスを取り戻すかの様に読みふけった。

まるで涸れた心を活字で満たすように。活字が染みこむのと同期して心にエネルギーが戻ってくるのを感じた。



フェリーを待っていると、老夫婦がこちらを見ながら話しているのが聞こえてきた。

「じいさん、じいさん、吉本さんちの和ちゃんにそっくりな子がおるよ。」

おじいさんは和真君を見て

「ほんまじゃの和君にそっくりじゃ。最後におうてから随分経つがのお。」

多分二人は小声で話しているつもりだろう。しかし、ご高齢なのでいつの間にか大きい声になっており、こちらまで筒抜けなった。


「そうじゃ、邦三の三回忌におうたんが最後じゃったかのお。」

「ほうじゃ、ほうじゃ。」

横を見ると真っ赤な顔の和真君が、居たたまれなくなったのか老夫婦に近づいた。

「お久しぶりです。邦三の孫の和真です。」

「ありゃ~やっぱり、和ちゃんじゃったねぇ。じいさん。」

「大きゅうなったの。今いくつじゃ?」

「18歳になりました。」

「通りで、ワシらも年取るはずよ。」

「和ちゃん、どうしたんね。久恵さんが島から出てからは、知り合いおらんじゃろ。」

「ええ、でも祖父のお墓参りをしたくて。」

「ええことよ。一人ね?」

「いえ、父方の叔母と一緒です。」


 え!まさかの私?和真君からの圧で仕方なく挨拶に行った。

「こんにちは。和真の叔母です。いつも和真がお世話になっております。」

「こんにちは。都会の人はちがうのお、若いわ。叔母さんには見えん。」

私は、この茶番はいつまで続くのかと頭が痛くなった。

頭を抱え始めた頃、乗船案内のアナウンスが流れた。

私はホット胸をなで下ろした。


 フェリーに乗船して、老夫婦から離れた席で

「どうすんのよ、叔母さんって。」

「だって、赤の他人のおばさんと旅してるって言ったら、超怪しくないですか?

下手に不倫だの、駆け落ちだのと噂になったらどうするんですか?」

私は驚いて目を丸くして「親子ほどの歳の差なのに、無いわ。それ。」

「そりゃ、俺だって無いと思います。でも、さっき丸山のじいさんが言ってたみたいに立夏さんて若・・える・・・。」声はだんだん小さくなって最後は微かに聞こえるくらいだった。

思わず笑った。「まぁ良いわ。私は島滞在中は君の叔母さんって事にしておくわ。」

「では、お言葉に甘えて、叔母さんと呼ばして貰います。」


島までは30分の旅だ。私は鞄から文庫本を取り出した。





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