第9話 ゆっくりで良い

 島に上陸すると、港近くの定食屋で昼食を取り近くの民宿に宿を決めた。

今日は宿でゆっくりし、あす朝お墓参りに行くことにした。


 夕飯後、和真君は私の飲み相手になっていた。

「この島の魚介って何を食べても本当に美味しいね。」

私はスルメをあてに、冷酒をチビチビと飲んでいた。

「でしょ。ここの海の幸食ったら、当分余所では食えないっす。」


 冷酒ってのは口当たりが良い分、飲み過ぎてしまうようだ。

うっかり悠太の事を口にしていた。

「悠大はどうしたら自ら生活を直し、登校できると思う?」


彼は、一瞬驚いた顔で私を見て、

「それは難しい問題っす。誰にも答えは分からないと思う。

きっと悠大君自身しか答えは、導きだせない。

そして、彼は今、その道を模索中だと思う。

今は自分でもどうして良いか、分からないんじゃないかなぁ。

実際、俺も今そうだし。

確かな事は、目標を失い、学校へ行く意義さえ見失っているって事だけ。」


和真君は、一言一言を丁寧に紡ぎ出していた。

自分と悠大が、何処かリンクするところがあるのだろうか?

時折、眉間にシワを寄せ、苦悩するかのように。


「でもこのままでは、卒業すら出来なくなっちゃうよ。」

「俺もそうだけど、高校生っていざとなったら、『まだ親が助けてくれる』ってどこか甘えと無責任な所があると思う。

だけど結局、親では助けきれない現実を俺達は知るべきなんだと思う。」

「手遅れになったらどうするの?高校中退よ。」

「今は大検もあるから、本当に悠大君にやりたいことが見つかったら、そこからリスタートしても手遅れではない。」


「あ~あ、親って結局の所、無力なのね。」

「でも俺達子供は、いつも親が側で見守ってくれてるってことが心強んだよ。」

「まだまだ子供だと思っていたのに、ちゃんと考えてるんだね、和真君。」

「そうっす、子供も精一杯で模索してるんです。もう少し温かく見守って下さい。」


 「少し酔いを覚ましてくる」私は外に出た。

スマホを握りしめ、防波堤に座った。少し悩んで、悠大の番号をタップ。

しばらく呼び出し音が鳴った。

諦めて切ろうとした時だった、ちょっと不機嫌そうな懐かしい声

「もしもし。」

「悠大?」

「ああ、何?」

「今どうしてる?」

「ゲームしてたけど、何?文句ある?」

「無いよ。」

「・・・」

「ごめんね、悠大、不安にさせてるね。」

「・・・別に。」

「もう少しだけ、待っていてくれる?ちゃんと悠大の意見や思いを、大切にできるようになって戻るから。」

少し間があって

「・・・あっそう・・・・・じゃ気を付けて。」

そう言って電話は切れた。

地平に広がる星を眺めながら、ゆっくりで良いのかもしれないと思えた。







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