第5話 旅は道連れ

「私は立夏。君は?」

和真かずまです。」

「和真君は、高校3年生かな?」

「はい」

「じゃぁ、君は未成年だから直ぐに学校へ行くっ!て言いたいなぁ。本当は。だけど私は現実から逃亡者だから君にきれい事は言えない。困った。」

私は悩んでいた。

「取り敢えず、警察に届けが出される前に、親御さんへ連絡した方が良い思う。じゃぁね。」ご両親に連絡さえ入れれば、話し合って何とかなるだろう。


すると彼は、まるで楽しい事を見つけた子供みたいな顔で。

「ちょっと、待って下さい。2022年の法律では現在18歳の俺は成人です。」

「だから?」

「自己責任でおばさんと逃げ旅したいです。」目を輝かせた悪魔の微笑で言った。

私は驚いて言葉を失った。

「旅は道連っしょ。おばさん!」

「えー、私が悪人だったら、どうすんのよ?」

「悪人は自分の事、悪人って言わないでしょ。この時点でおばさんは善人だと思われます。」


 困った。このままでは現実逃避の気ままな一人逃げ旅のはずが、少年と中年女性の珍道中になりかねない。

でも一瞬脳裏を過ぎった。息子の心が読めな私としては、この旅上手く使えば、息子に対しての接し方のヒントを得られるかもしれない。いやいや、そんな旅は違う。自問自答を脳内で繰り返していた。答えが出るのに時間が掛かりそうだったので、聞いてみた。


「私は気ままに旅しているだけだから、目的地は無いわ。

それと読書しながら列車の旅を味わいたいから基本、鈍行列車よ。

この2点に異議無い?」

「無いっす。」即答。

「じゃあ、もし親御さんが許可を出したら、考えても良いわよ。」

まぁ、そんな事を許可する親はいないだろうと半分高を括っていた。

「必ず期限は決めること。連絡は定期的に入れますって親御さんと約束して。じゃないと私が誘拐犯になりかねない。」

「了解!」


 彼は、直ぐさまスマホを取り出し電話をした。

「父さん、俺。1週間、旅に出ようと思う。必ず帰るし、ちゃんと連絡も入れる。

俺の将来をゆっくり見つめ直したいんだ。このままだと目標を失ったまま全てが中途半端だ。」

「うん。ありがとう。そうしてくれると助かるよ。

俺が言うと多分、母さんはヒス起こすだろうし。」

何この展開。まさかの承諾?

「うん、分かった。約束する。じゃぁ。」


こちらを見て、満面の笑みで

「と言うことで父さんの許可は出たっす。母さんへは、父さんから伝えて貰う約束です。って事で条件クリア!同行、宜しくお願いします。」

参ったと思いつつ、心の何処かで、これも有りかと思った。

「分かったわ。宜しくね、和真君。あっおばさんは止めて、テンション下がるから。

立夏さんで、よろしく。」


どうやら旅は賑やかなものになりそうだ。

腹が据わった私は彼を一歩引いて眺めた。

「じゃぁ、まず着替えね。折角の旅だから、旅らしくね。」





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