第2話 逃避行のはじまり
心が決まれば、行動は早かった。
慌ててATMへ行き私の口座から100万を引き出した。
主人にしばらく留守にするが心配いらない、悠大の事を頼みますとメールした。
会社の総務に電話し「親が急に入院した。容態が余り良くないので、貯まっていた有給を取りたい。」と申し出た。
以外と嘘が口からツラツラ出ることに驚いた。
そして一通りの連絡が終わったので、スマホの電源を切った。
駅に隣接したショッピングモールへ行った。
足が痛かったので、スニーカーを買った。するとスーツでは合わないので、スニーカーに適したパンツとシャツ、下着などを適当に買った。
そして、荷物がいっぱいになったので大き目のリュックを買った。
そして、ここが肝心、書店を探し14冊の文庫本を購入した。
逃避行は2週間と決めていたので、お気に入りの作家さんや話題の本など、丁寧に2時間掛けて14冊選んだ。
忙しい時の隙間時間での読書にはデジタルが便利だが、ゆっくり本に向き合いたい時にはやっぱり紙が恋しい。
仕事と子育てに追われ、もう何年もゆっくり本と向き合う時間を持てなかった。
本を選びながら久しぶりに心が弾んだ。
私の中にこんなワクワクとした気持ちが残っていたことに驚いた。
コンビニで、サンドイッチと缶ビール、枝豆を買った。
満ち足りた気持ちで近いホテルにチェックインした。
部屋に入ったとたん全ての重荷を脱ぎ捨てる様に、ヒールを脱ぎ捨て、シャワーを浴びた。
熱めのシャワーをのぼせる寸前まで浴びた。まるで全て洗い流してしまいたい私の気持ちを象徴するかのように。
フラフラになりながらシャワー室から出て、軽く水気を取った躰をベットになげうった。
汗が引いていく中で気付いた、化粧品一式が無い事を。
ヤバイ、スッピンで歩ける年齢ではない。
明日、買いに行こう。アメニティの化粧水と乳液を使いながら思った。
ホテルのローブを羽織り、先程買ってきたビールを冷蔵庫から出した。
ふとカーテンを開けると、目の間に京都街並みが広がった。
思った以上に綺麗だったので、私は部屋の明かりを最小限に落としカーテンを全開にした。
窓辺のソファーに腰掛け、夜景を臨みながら、枝豆をつまみにビールを一口。
こんなに美味しいビールは久しぶりだ。思わず一気に半分ほど飲み干した。
ゆったりとした、気持ちで夜景を眺め、至福の時を噛みしめた。
翌日に時間の縛りがない、予定も無い、何の縛りも無い。
何て緩いんだ。緩すぎて不安すら感じそうだ。
よし、西だ、西へ行こう。そう決めて、残りのビールを飲んだ。
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