拒絶された嗜好②




両親に報告した翌日、陽向を誘って遊びに出ていた。 待ち合わせ場所で待っていると遠くから陽向が手を振ってくる。 当然ながら千晴が一方的に好意を持っているだけで、陽向はそれを知らない。


「千晴ー! ごめん、待った?」

「少しだけね」

「どのくらい待っていたの?」

「二時間くらい?」

「・・・え、嘘でしょ?」

「嘘だよ。 行こう」


陽向とはどこへ行っても楽しかった。 一緒にいるだけで幸せだった。


―――・・・この気持ちを大切にしたい。



陽向に恋愛感情を抱いたのは高校生の頃だ。 部活は別になりテニス部のエースだった陽向は同性や異性からも人気があった。 それを見て嫉妬してしまったことで、沸き上がる感情に気付いた。


―――陽向は私だけのものだ。

―――誰にも渡したくない。

―――・・・あれ?

―――この感情は何?


陽向はずっと隣にいてくれたのだが、その分少しでも離れると寂しくなった。 よく分からないもどかしい感情に悩んでいた。 そうして確信したのは陽向からの一言だった。


「千晴、どうしたの?」

「え、何が?」

「最近元気なくない?」

「そうかな・・・」

「もしかして、好きな人でもできた?」


その言葉で胸に衝撃が走り、自分は陽向のことが好きなのだと理解した。 正直、今まで普通に異性を好きになっていただけに動揺した。 

考えて、考え抜いて、それでもやはり陽向が好きなのだと結論を出した。 同時に苦しい日々が始まってしまった。 それから逃れられる時は陽向と共にいる時だけだ。



「あれ? 陽向と千晴じゃんー!」


現在、陽向と歩いていると偶然外で中学時代の友達と出会った。


「久しぶり! 元気だった?」

「そういう二人も元気だった? にしても陽向たちって、ずっと一緒にいるよねー」


友達と陽向は二人で盛り上がっていた。 その楽しそうな光景を見るのも嫌だし混ざるのも嫌だった。


「ねぇ、陽向! この後予約していたところがあるでしょ? 早く行こうよ!」

「え、予約? そんなのしていたっけ?」

「いいから、早く早く!」


だから強引に引き剥がした。 陽向は不思議そうに首を傾げる。


「千晴、どうしたの? 予約なんてしていないよね?」

「・・・うん、ごめん。 嘘をついて」

「まぁ、いいけどさ。 今は私たち二人の時間だもんね」


そう言って笑う陽向が好きだった。


「ねぇ。 この後、私の家に来ない?」


もう誰にも邪魔をされたくなくて二人きりになれるよう誘った。 陽向は笑顔で頷いてくれた。


「千晴の部屋、初めて入るなぁー! 凄く綺麗じゃん!」


正直なところ陽向にはあまり家へは来てほしくなかった。 部屋には陽向を好きであるという証が見ただけで分かる程に存在する。 だが今回ばかりは嫉妬が勝ってしまったため仕方がない。 

家でゆっくりとくつろいでいる時だった。


「ちょっとお手洗いを借りるね」

「うん」


陽向は立ち上がり廊下へ出ていった。


「お手洗いは左ー?」

「左・・・。 あ、違ッ!」


止めようとした時には遅かった。 陽向は間違えて寝室の部屋を開けてしまったのだ。 一面に広がる陽向と千晴の写真。


「・・・え。 何、これ・・・」


本当は見られたくなかった。 まだ告白の準備もできていない。 だが見られてしまったからにはもう後戻りはできなかった。 気持ちを伝えるのなら今しかない。


「・・・好き。 好きだよ、陽向」


そう言って陽向に触れようとする。 だが陽向は顔を驚愕に歪め、距離を取るよう一歩下がったのだ。


「・・・ごめん。 私、そういうの無理」

「ッ・・・」


覚悟していても受け入れられない事実がある。 幼少期より誰よりも長い時間を共にしてきた親友の拒絶は、肉親である父からの拒絶よりも辛かった。


「そんなこと、言わないで・・・」

「来ないで!」


触ろうとすると逃げる陽向。 千晴は嫌われないように必死に追いかける。 そこで母の言葉を思い出した。 辛い表情は作らないように笑顔を浮かべる。 その笑顔を見て陽向は怯えていた。


「ねぇ、陽向。 私と一緒になろうよ。 お願い」

「嫌!!」


震える陽向を見て千晴は笑いながら手を伸ばした。



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