1F:マジカルガールズ
私ね、あれ欲しい。
彼女がそう呟いたのは化粧品コーナーの一角だった。しゃがみ込んで悩んでいたアイシャドウを商品棚に戻し、突然立ち上がる。何の前触れもなく歩き出した背を追いかけると、彼女は染めたことのない黒髪を歩調に合わせて揺らしながら
「大きくてちゃっちいペンダント。今JKだけどさ、つけたいし。真っ赤なチェックリボンでポニーテールとかしたいもん」
でも、ママは嫌な顔すんだぁ。言葉とともに振り返ってきたのは、日本人にしては色素の薄い茶色い目。私が沈黙を続けていれば、その子はコーラルピンクの唇を緩めてそのままUの字にする。
「あの、なんだっけ。食玩みたいな箱に入ってる可愛いペンダント。スーパーのお菓子売り場によくあったやつ。ああいうの好きなんだよねぇ。今でもつけた……いや、今だからつけたい?」
「魔法少女が使ってそうなやつのこと?」
「そうそれ! 変身ペンダント! あと箱のやつ、名前思い出したよ!」
あースッキリした! いつも一人で盛り上がるのが得意な彼女はパン、と大きく手を打って笑っている。私が肩にかけたスクールバックの紐を握りしめて、引き攣って笑ったことに気づかないまま
「ああいうのいいよねぇ。キラキラしててさ、お姫様や魔法使いになった気分になれる」
簡単な魔法だよね、そう締めくくった彼女はセーラー服のスカートを揺らして鼻歌混じりに店外へ出た。それについて行く私のペースなどお構いなしにずんずんと。一方の私はドラックストアの中にある小さな化粧品コーナーを一瞬振り返ってから、彼女の跡を小走りで追っていく。
脳裏に浮かぶのはあの魔法少女のステッキや、あの食玩のペンダント、夜店に並ぶ銀色台座に大ぶりのエセ宝石リング。それよりも私は魔法少女のペンダントよりファンデーションが欲しいし、食玩のアクセサリーより数カラットのダイヤモンドがいい。
でもそんなの話したって、一回も振り返らない貴方はどうせきっと右から左。
彼女が先に足を乗せたエスカレーターはどんどん上へ向かっていく。私は後を追う前に、脳裏にこびりついたちゃっちいアクセサリーを砕き壊した。
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